200億の女 Vol.9

「とろけるくらい、甘やかしてあげます」夫に不信感を持った妻に仕掛けられた、詐欺師からの甘い罠

「思ったことをすぐ素直に口にして、刑事なんか務まるんですか?ああ、そうか、今までは一課で強行犯係とか暴力犯係だったから…腕っぷしと度胸がある方が大事だったのか。検挙率ナンバー1ですもんね。それで何度も表彰されてるんだから…」

「なんで…俺のことを調べた?」

「それについては、ただの興味です。僕、好奇心旺盛なんで。それに福島さんみたいに真っ直ぐな人がホントに羨ましくて。大好きなんですよ」

質問すればするほど小川のペースにハマり、翻弄されてしまっている。

確かに福島は、自他共に認める真っ直ぐな…感情的な人間ではあるが、取り調べは得意だ。

2桁の人を殺した凶悪な殺人鬼や、日本の暴力組織のドンなど、難攻不落と言われた犯人たちを何度も、完全に落として自白させたことから、「完落ちの福島」と言われている。

どんな相手であっても、会話の主導権を奪い、握ることには慣れているはずなのに。

「さっき、いくらを何人から、とおっしゃいましたよね」

黙ったままだった福島に、小川は楽しそうに声を弾ませ、そう言った。返事をせず、見つめ続けてくる福島に構わず、小川は続けた。

「もう一つだけ、あなたに情報を与えることにします。僕は、もうすぐまた…ある女性から大金を譲られます。それが罪だというのなら、是非福島さんに調べてもらいたいし、福島さんに裁いてもらいたいな。

こんなことをあなたに伝えることになるとは、僕にとっても予想外の展開だけど…実に楽しみです。あなたの次の行動が」

最後に、では今度こそ失礼します、と付け足すと、入口のレジに向かった小川は、福島が飲んだコーヒー代まで支払った。男前にはめっぽう弱いマダムが、またお待ちしていますー♡と、浮かれた声で送り出すまで、一度も福島の方を振り返らなかった。



『神崎智さま。あなたのご主人の大輝さんは、あなたを裏切っています』

『出会った時から今まで、ずっとあなたを騙している』

『あなたちの結婚は偽物で、彼の打算的なものだ。彼はあなたが思っているような人ではない』

『私はあなたの味方です。ご主人の偽善を暴いて、あなたを解放してあげましょう』


娘の愛香を寝かしつけ、リビングに戻ってきた大輝に、見てほしいものがある、と智が差し出したのは、携帯だった。

開かれていたショートメールの文章を確認すると、脳内に一気に血が集まる。携帯を持つ右手が震え出す前に、大輝は携帯を自分の膝の上に置き直して聞いた。

「…何これ?」

眉間にしわを寄せ、驚いた顔を作って、大輝は智にそう聞いた。コの字型のソファーの角の部分に並んで座ってしまったことを後悔しながら。

―ついにこの日が来てしまった。

何度も、何度も、智にバレた時のことはシュミレーションしてきたから、上手く声は出せたと思う。でも、大きく脈を打ち出した心臓がうるさい。

そして、大輝の様子をしばらくジッと見つめていた智が、一昨日届いたんだけど、とどこか申し訳なさそうに言った。

「こんなメール、気にする必要ないって分かってるし、わざわざあなたに見せるべきじゃないのかもって悩んだりしたんだけど。でも私、大ちゃん…あなたのことだけは、できれば疑いたくないの。だから、はっきりと違うっていって欲しくて」

仕事の時とはまるで違う、自信のなさそうな声とその表情。おそらく自分だけが知っている智の顔。いつもなら嬉しく思う妻の無防備な姿に、今日はキリキリとした胸の痛みを感じながら、大輝は笑顔でウソをつく覚悟を決めた。

「こんなメールが何で送られてきたのか分からないし、気味が悪いけど、書かれてることがウソだということは、智が一番よく知ってるはずだ」

このメールの打算的とか、裏切りとかいうワードが何を示唆しようとしてるのか分からないけど、思い出して欲しい…と前置きして、続ける。

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