呪われた家 Vol.1

呪われた家:玉の輿に乗った26歳・新妻。彼女が恐怖に陥った、夫の実家での“しきたり其の一”とは

その後すっかり秋めいてきた9月の中頃。結婚の挨拶のため、沙織がはじめて宗次郎の実家を訪れる日が来た。

宗次郎は大学の芸術学部で美術史の研究員をしており、代々芸術系の一家なのだと聞いていた。

かたや、沙織は看護科出身のいわゆる“リケジョ”。芸術一家の話についていけるのか、気に入ってもらえるのか、心配事は尽きない。

「ねえ、手土産本当に和菓子で大丈夫だった?お父さんお酒飲む人だっけ?お酒も買った方がいいかな」

「これから家族になるんだから、そんなに気を使わないで大丈夫だよ」

「それが一番プレッシャーなんだよ。家族になるからこそ、最初が肝心でしょ」

日曜日、宗次郎の運転で目白の実家へ向かう。付き合って1年。家族の話はそれとなく聞いていたが、実際に会うのは今日が初めてなのだ。

宗次郎は大学の研究員で今はまだ年収が高いわけではない。それでも最新型のベンツに乗っていることや、身なりや立ち振る舞い、些細な会話から「格の違い」を感じていた。いよいよそれを目の当たりにすることになるのだろう。

大通りから路地に入り住宅地の奥へしばらく進むと、宗次郎はゆっくりと車を減速した。

「着いたよ」

目の前の光景を見て沙織は一瞬で言葉を失う。

―え?ここ美術館か記念館じゃないの?

鬱蒼とした木々の奥に、見事な洋館が佇んでいた。大きな門がゆっくりと開く。


「え?ちょっと待って。ここが家なの?」

混乱したまま沙織は宗次郎に促されて玄関までたどり着く。重そうな扉を開けるとき、ギギギギ…という軋む音が響いた。

「ただいま」

「おかえりなさい。宗次郎さん」

玄関を開けると、そこには宗次郎の母親―千鶴子が膝をついている。衝撃の光景で、不意打ちだった。

「は、はじめまして。岡林沙織と申します。いつも宗次郎さんにはお世話になっております!」

沙織はしどろもどろで頭を下げ、慌てふためきながら手土産を差し出した。

「はじめまして。沙織さん。お話は伺っていますよ。お待ちしていました。どうぞお上りください」

千鶴子はふふふと笑いながら言い、立ち上がった。

50代の中ごろだろうか。とても上品できれいな人だというのが第一印象だ。髪も肌もきちんと手入れされていて、品の良いクラシカルなブラウスにロングスカートを履いている。

気負いながらも沙織は促されるままに廊下を歩く。そこはまるで夕暮れ時のような薄暗さで、いたるところに飾られた立派な油絵や花瓶が存在感を放っていた。

きっといちいち感想を伝え褒めるべきなのだとわかっているが、沙織には美術品を讃える知識がなく不甲斐ない。

「どうぞこちらへ。みんな揃っていますよ」

「え?みんなですか?」

通された応接間には、なんとずらりと家族が揃っていた。

この記事へのコメント

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No Name
代々姑が着た婚礼衣装を引き継ぐのにどうしてこの未来のお姑さんはドレスに変えられたの??
2019/08/23 05:5199+返信28件
No Name
よかった、看護師さんならいつ離婚しても食べていける。
2019/08/23 06:4499+返信9件
No Name
何だか面白そうな連載始まった!!
2019/08/23 05:0881返信13件
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