女たちの選択 Vol.7

「田舎の開業医になんか、嫁ぐんじゃなかった…」東京を諦めきれない元・港区女子の後悔

そんなわけで、沙耶は28歳で再び振り出しに戻った。

華やかな顔立ちで、モデル級とはいかないまでも男好きのするスタイルをもつ沙耶であるから、その後も言いよってくる男性はもちろんいた。

しかしシェフの彼のカリスマ性、ビジネスセンスを超える男性となると難しい。

あれも違う、これも違うと選り好みをしているうち、あっという間に20代が終わっていった。

「ついに30歳の誕生日を迎えた時、実家の両親がお見合い話を持ってきたんです。相手は高松で代々続く開業医の跡取り。特に母が“沙耶ちゃん、開業医の妻が一番の勝ち組なんよ”ってしきりに私を説得してきて…」

沙耶自身も30歳を超え、周囲が自分に向ける目が変わってきていることを感じとっていた。

これまで自分がターゲットとしていたような、イケてる経営者や外銀マンが、どこからか湧いて現れた20代の若い女子にさらわれていく。そんな場面にも度々遭遇した。

地方の開業医などこれまで眼中になかった沙耶。しかし母が「代々続く開業医の妻が一番の勝ち組」「いくら稼いでいても成金は水物」などと話すのを聞いているうち、そうなのかもしれないと考えを改めるようになったという。

「最初は渋々でしたが…実際にお見合いの席で会ってみたら、思いがけず“いい人”だったんです。見た目も許容範囲だし癖もなくて…ピュアで育ちの良い男性という感じ」

高岡秀則と名乗るその男性を前に沙耶は、ときめいたわけではなかったが、不思議な落ち着きを感じたという。

「東京の婚活市場で見てきた男性とは違う安心感を感じたというか…。高松という狭い地域の話ではありますが、地元の名士の家柄で、何不自由のない生活が待っているのは明らか。色々あって消耗していた当時の私には、救いの手のように思えたんです」


両親の強い勧めもあり、沙耶は半ば勢い半分で高松の開業医・高岡との結婚を決めた。

東京で共に婚活をしていた女友達には「高松?」と怪訝な顔をされたりもしたが、そんな時も相手が代々続く開業医だと話せば皆「ああ…」と一斉に口を噤んだ。

高岡家の方も、36歳にもなって彼女の影もない息子を心配していたのだろう「東京からこんな美人さんがお嫁にきてくれるとは…」と沙耶を歓待。

義両親は影で「早めに子どもを…」と話しているようだが、マイペースで優しい夫は「沙耶ちゃんのペースでいい」と言ってくれる。

高岡家に嫁いでしばらくの間は、ストレスフルだった職場からも婚活戦線からも解放され、東京では考えられないほどの広い敷地に建つ豪邸で、沙耶が存分に開業医の妻としての立場に酔いしれていた。

しかし目新しかった生活にも慣れてしまうと、次に沙耶を襲ったのは激しい後悔だった。

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