200億の女 Vol.7

幸せな家庭だと信じている妻には、絶対に言えない夫の秘密

騙されたのは女か、それとも男か?
「恋」に落ちたのか、それとも「罠」にはまったのか?

資産200億の“恋を知らない資産家の令嬢”と、それまでに10億を奪いながらも“一度も訴えられたことがない、詐欺師の男”。

そんな二人が出会い、動き出した運命の歯車。

200億を賭けて、男と女の欲望がむき出しになるマネーゲームはやがて、日本有数の大企業を揺るがす、大スキャンダルへと発展していく。

男が最初の駒に選んだのは、令嬢の部下だった。そしてその男の計画通り…令嬢はジワジワと追い詰められたように見えたが、前回は令嬢の方が男を圧倒する。

しかしそれが、男の闘争心に火をつけることになり…。


世田谷区:神崎智の自宅


朝の光が眩しく差し込むキッチンに、智は、いつもより遅く現れた。

その顔には疲労が浮かび、おはよう、と言ったその声もいつもより掠れている。最近の激務のせいだろうと察した夫の大輝は、妻のためのコーヒーを注ぐと、それを手渡しながらやんわりと聞いた。

「毎晩遅いし、忙しいのは分かってるけど…夏休み、一緒に取れそう?いつもの宿に行くならそろそろ予約しないと。智も少し息抜きした方がいいと思うよ」

智の表情がほんの少し曇ったことで、先を聞かずとも、大輝にはその答えが分かってしまう。

「取りたいのよ…ホントに。でも、予定が中々決まらなくて」

仕事では相手を論破することに長けた彼女が、こういう時にはいつも、まるで子供の言い訳のように心許ない口調になる。

「今年は仕方ないよ。智の今後がかかったデビューの年なんだから」

「ごめんね…いつも」

そう言った智に大輝が返事をしようとした時、ママぁ、リボン結んでぇ、と一人娘の愛香が、まだ眠そうな声で近づいてきた。

お気に入りのヘアゴムを小さな手で智に差し出すと、智はその手を握り、ソファーに促した。

先に座ったママの膝に愛香が、よいしょ、よいしょ、とよじ登ると、智がその体を支えながら、薄茶色の愛香の髪を器用にアレンジしていく。大輝にとってこの世で一番大切な2人が微笑み合うその光景は、何よりの癒しだった。

「愛香、朝ごはん、パン焼く?それとも卵かけごはん?」

癒しの片割れへ大輝が質問すると、「ママと食べるぅー」という見当違いな答えが返ってきた。いつもは忙しいママを、独占できる日曜日の朝の喜びに溢れた娘が可愛らしくて、大輝はそれ以上追及することなく冷蔵庫を開けた。

世に言う、母親らしい母親、というわけではないかもしれないけれど、智の愛情はちゃんと娘に伝わっていると大輝は思う。けれど、智はいつもこういうのだ。

「私が母親で、この子は良かったのかな?私には母親の才能が無いかもしれないのに」

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