7コ下の恋人 Vol.1

7コ下の恋人:結婚を誓ったはずの男がハマった、あざとすぎる女。33歳独身女がショックを受けた光景

あの日から3週間後。

私は、恵比寿にある『和BISTRO 88WANOBA』で、知り合いの仲間を集めた交流会に来ている。

ほんの数日前までは、家と会社の往復以外は一切外出の予定をいれず、部屋でメソメソと泣いてばかりいたし、夜も熟睡できていない。

だけどこのままではさすがにマズイ気がして、ずいぶん前に参加の返事をしていたこの会に、億劫ながらも顔を出すことにしたのだ。

智也からは「ごめん、悪かった。一度ちゃんと話そう」という数件のLINEがあったが、全て答える気にはなれずに無視している。

でも、いつまでも逃げてはいられない。そろそろきちんと話し合わなければ。

そんなことを考えていると、不意に隣にいた青年に話しかけられた。

「あの、名刺交換させていただいても良いですか?」

歳は20代半ばくらい。コットン素材のアンクルパンツにヒジまで捲り上げたリネンのシャツという、爽やかで年相応の装いだ。

「え?あ、はい…」

ボンヤリしていた私は、ハッとして姿勢を正した。

すると青年は、定型の挨拶と共に親しみのある綺麗な笑顔を向け、名刺を差し出した。私も慌てて名刺を鞄から取り出し、彼と交換する。

西村晴人と名乗るその男性は、私の名刺を見るなり嬉しそうな顔を浮かべた。

「僕、御社の社長が書いた起業家へ向けた本、読みました…!アメリカと日本の違いが項目ごとに比較して書かれていて、勉強になりました」

「そうなんですね。あの本は社長が2年以上かけて書いた力作なので、それを聞いたら喜ぶと思いますよ」

社交辞令的に返事をしていると、目の端に、会に来ていた他の女性が履いている赤いソールの靴が映った。

ールブタンだ…。

その瞬間、あの時の光景がフラッシュバックした。

智也の浮気現場を目撃したあの日の、忌まわしい記憶。

謝まりながらも、決して取り繕おうとしない智也。智也を責めずに自分が悪いと、悲劇のヒロインのように振る舞ったあの女の子。

そして、玄関に置いてあった真っ赤なソールのルブタン。

ルブタンは、憧れのブランドでもある。だが、ドレッシーな服を着ない私には合わないからと、いつも見るだけに終わっていた。

一度だけ、大きなプロジェクトを成功させた自分へのご褒美として買ったことがある。でも結局は観賞用で、パーティーはおろか、智也の前でも履いたことがない。

「俺、ルブタンをカッコ良く履いている女性って憧れるんだよな」


昔、彼がそんなことを言っていた。この言葉のせいか、智也の前で履くのは媚びているような気がして恥ずかしくて、どうしても履くことができなかったのだ。

ーあの子は、私みたいにバカなプライドなんてないんだろうな…。私も素直に履けばよかった。もっと、智也の前で素直になればよかった…。
......


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