もう1人の私 Vol.3

「クズ男は利用するだけ」男を憎む有能な美女の、心に秘めた意外な一面

貴方は、自分の意外な一面に戸惑った経験はないだろうか。

コインに表と裏があるように、人は或るとき突然、“もう1人の自分”に出会うことがある。

それは思わぬ窮地に立たされたとき、あるいは幸せの絶頂にいるとき。

......そして大抵、“彼ら”は人を蛇の道に誘うのだ。

前回登場したのは、失望の結婚生活の末に道を踏み外した雄一(33歳)

今回は、その不倫相手・美砂(34歳)の「もう1人の自分」のを紹介する―。


広く無機質なリビングルームに、切ないピアノとジャズ・ヴォーカリストの甘い歌声が響き渡る。

“愚かな私の心”

日本語にするとそんな意味の言葉が、美砂の心を、ほんの少し搔き乱す。

最新の4K液晶テレビに似つかわしくない、粒子のざらついた荒い映像。白昼夢のようにロマンティックなヴォーカルに魅入られている美砂の背後から、珠美が厳しい声を投げかけた。

「お姉ちゃん、引っ越しは来週でしょ?断捨離するのは賛成だけど、いちいちビデオの中身まで見て確認してたら準備なんていつまでも終わらないよ」

7歳年下の妹の声で一気に現実に引き戻された美砂は、リモコンのストップボタンを押して映像を止めた。

麻布十番のスタイリッシュなデザイナーズマンションは、子育てをするには不向きな上に、雄一の自宅から近すぎる。

そんな理由で決めた引っ越しだったが、長引くつわりのせいで準備は一向に進まず、雄一の他にただ1人妊娠を打ち明けている妹の珠美に手伝いを頼んでいるのだった。

貴重な週末の時間を割いてくれている珠美に若干の気まずさを感じ、美砂は取り繕うように長い髪の毛を掻き分ける。

「うるさいわね。仕方がないでしょう?VHSにはチャプターメニューなんてないんだから、こうして一度再生してみるしかないのよ。だいたい私、妊婦なのよ?もう少し優しい言い方できないの?」

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