女たちの選択~その後の人生~ Vol.3

第一子出産後、まさかの「産後鬱」に陥った33歳・美人妻の葛藤

我が子と2人になるのが、恐い


由里子は、母親の気持ちを察したようにさらに激しく泣き叫んだ我が子の声で、正気に返った。

「泣き続ける息子がとにかく可哀想で、自分が最低すぎて、その日は夫が帰宅するまで息子と狂ったように泣き続けました」

後から思えば、産褥期の軽い鬱のようなものだったのかも知れない、と由里子は呟いた。

「あれ以来、息子と2人きりになるのが恐くなって。あのときの、頭の奥の方でカッと熱い何かが弾けるような、コントロールできない爆発的なイライラにまた襲われたらと思うと...」

“赤ちゃんのお世話は大変”なんて誰もが分かり切った常識であるが、全ての母親がそれに耐え得るとは限らないようだ。

「一体、これがいつまで続くんだろうって何百回何千回と思いました。あの頃は、友人知人からお祝いの言葉をもらうのすら辛かった」

—出産は女の最大の幸せだよね。
—我が子って本当に天使に見えない?
—赤ちゃん期はあっという間に終わっちゃうから、一瞬一瞬を大切にね!

こんな温かい言葉の、どれにも由里子は共感できなかったという。

それどころか、こうした母親たちをSNSや道端で見かけるたびに自分は“母親失格”だと責められているような気分になった。

「一つだけ分かったのは、母親業にも“向き不向き”があるんだってことです。もっと家族や子育てサービスを頼るべきだったのかもしれません。でも私は専業主婦で、少なくとも妊娠中は“ママ”になるのを本当に楽しみにしてたから...」

ちなみに由里子の母も、また義母も専業主婦。そんな環境も手伝い、彼女は“子育ては母親の義務”という思い込みが強かったという。

「ママ友達が“赤ちゃんて本当に可愛い、ゆっくり大きくなって欲しい”なんて言ってる傍で、私は正直、今すぐにでも息子が小学生くらいに成長するのを望んでました。...認めたくないけど、私は母親向きの女じゃなかった」

そうして由里子と息子は、どんどん負のスパイラルに陥っていった。

同じ月齢の赤ちゃんを持つママ同士でのイベントや助産師の育児相談室などにも足を運んだが、外でも泣き止まない息子にさらに疲弊するだけで、あまり効果はない。

しかしそんな中、夫からの一言で状況が少しずつ変わり始めた。

「由里子、ちょっとオカしくなってるよ。少し休もう」

夫が、認可外でもいいから保育園に息子を預けようと提案したのだ。

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