ブラックタワー Vol.10

妻が持っていた、出所不明の大金。プライドを傷つけられた夫がとった、最低の行動とは

ーまるでお城みたいに、高くて真っ白な塔。私もあそこの住人の、一人になれたなら…。

ずっと遠くから眺めていた、憧れのタワーマンション。柏原奈月・32歳は、ついに念願叶ってそこに住むこととなった。
空に手が届きそうなマイホームで、夫・宏太と二人、幸せな生活を築くはずだったのに。

美しく白い塔の中には、外からは決してわからない複雑な人間関係と、彼らの真っ黒な感情が渦巻いていたー。

憧れのタワマン暮らしを始めた奈月だったが、元不倫相手が同じマンションに住んでいることを夫に隠し通せず、戸惑う夫は家を出てしまった。ようやく帰ってきた夫から漂う浮気の香りに、奈月はとうとうスマホに手を伸ばしてしまい…


妻には言えない夫の事情


「宏ちゃん…これ、どういうこと?!」

僕が風呂場から戻るや否や、妻・奈月の怒り声が部屋中に響いた。その形相は、いままで見たことのないほど怒りに満ちている。

突然のことに訳が分からなかったが、妻の手に黒いスマホが握られているのをみて、嫌な予感が脳内を駆け巡る。

「え?ちょっ…あ。」

勝手に口から飛び出す声は、言葉になっていない。ついさっき洗い流したばかりの汗が、全身から噴き出してくるのを感じる。

「おかしいと思ってたのよ…!」

涙目の妻が、メッセージ画面をこちらに突き付けた瞬間、悪い予感が的中してしまったことを確信した。

「この、多香子って、コンシェルジュでしょ?なんで連絡先知ってるわけ?なんでこんなメッセージのやり取りしてるの?」

「あ、あの、ごめんっ。えっと、飲み友達っていうのかな。ただそれだけ…だよ?」

妻の怒りを鎮めたい一心で、必死に説明を試みる。

しかし、しどろもどろの説明に、疑いの目は強まるばかりだ。

「私にばれないように、二人して楽しんでたの?“昨晩はありがとうございました”って、これ、一日留守にした日に会ってたってことでしょ?!」

妻は、ソファに携帯を投げつけて、こちらをキッと睨みつけた。

「…ごめん、その日、喧嘩して飛びだした後、二人で飲んだ。でも、日が変わるまでには帰ったし、なっちゃんが疑うようなことは何もない。でも、黙っていてごめん。」

僕は、何度も何度も、深く頭を下げた。

「もう、何も聞きたくない。…何も信じられない。」

ぽつりとそう呟いた妻の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。いつもは強くて元気な彼女が、肩を小さく震わせている。

初めて見る妻の姿に、自分の浅はかな行動のバカさ加減と、情けなさが、胸にウッとこみ上げてきた。

「本当にごめん。全部話すから、話を聞いてほしい。あの日、僕が何をしていたのかも全部。」

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