ブラックタワー Vol.10

妻が持っていた、出所不明の大金。プライドを傷つけられた夫がとった、最低の行動とは

夫の秘密を知った妻の、決意と覚悟


「それって、転職するってこと…?」

突然の夫の告白に、奈月は驚いて声を上げた。

「まだ何も決めてないよ。…ただ、今の会社以外にも活躍できる場所はいろいろありそうだってことは、わかった。」

転職なんてそんな大事なこと、一人で決めないよ、と宏太は断言する。

「ほら、住宅ローンもあるし、転職云々の話をしたら心配するかなって思った。でも、その考え方が良くなかったんだよな。

…ごめん。本当に悪かった。」

再び深く頭を下げる夫を見つめ、奈月は決意を固めた。

「話は、分かった。まずは、今すぐ彼女からの連絡を拒否して。内容は、すべて私の携帯に移したから。

…コンシェルジュが個人的に住民と連絡をとっていることは、管理会社に報告します。私は、彼女にこのマンションから出て行ってほしいと思ってる。」

奈月の言葉に、夫は「そうだよな」と小さく呟いた。

「それに、あの隠し撮り写真を撮ったのも、きっと彼女よ。あなたに気があるようだから、私を陥れるためにやったとしか、考えられない。…それについても、調べてもらいます。」


結局、宏太の浮気疑惑に関して、奈月はそれ以上追及しなかった。

夫の話とメッセージのやりとりから、内容に嘘はないと判断できたし、夫も反省をしていることが分かったからだ。

それに、夫が抱えるコンプレックスの一因が自分にあると知ってしまった。住宅ローンを組む際に、夫婦共同ローンを頑なに拒否した宏太の覚悟を、奈月は深くは考えていなかったのだ。

ただ少しでも負担が減るようにと差し出した"永田からの慰謝料"が、知らず知らずのうちに夫を追い詰めていたなんて、思いもしなかった。

「ねえ、なっちゃん。」

先に寝室へ向かおうとする奈月を、宏太が呼び止め、言いづらそうに切り出した。

「前から気になってたことがあってさ。…不幸の手紙のこと、俺が吉岡さんに話したと、まだ思ってる?」

「あぁ…うん。」

あの日の奇妙な感覚は、鮮明に覚えている。

宏太と二人で犯人を捕まえたが、いろいろな事情で大事にせず秘密裏に解決したはずだった。しかし多香子は、奈月がトラブルに巻き込まれていたことはもちろん、それが解決したことを知っていたのだ。

「それがさ、前も電話で言った通り、俺は何も言ってない。確かに、数年前の不幸の手紙については彼女から聞いたけど、それ以降俺からは何も話してない。…なのになんで、知ってたんだろう?」

確かに、とは思ったが、もう、今日悩むのは限界だった。

「…明日考えよ。もう寝る。」

もう追及しないと決めたとはいえ、夫のことを許した訳でない。これから、宏太への気持ちがどう変わっていくのかは、奈月自身にもわからない。

ただ、闘うべき相手がはっきりと分かったことで、得体のしれない不安から解放されたことは確かだ。

明日からはじまるであろう決戦に備えて、奈月は固く目を閉じたのだった。


▶NEXT:6月13日 木曜更新予定
マンションを追われた女が、新たなる標的にロックオン…?

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