SPECIAL TALK Vol.55

~「目標を立てて、必死に努力する」。苦境を突破する術をスポーツが教えてくれた~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。神戸大学工学部卒業。1989年起業、代表取締役就任。

困難な場面でこそ、チャレンジすることを諦めない

金丸:それから3大会連続でパラリンピックに出場するとは、ものすごいことですよ。しかも谷さんの場合、会社勤めをしながらですからね。

谷:就職活動でサントリーという会社に出合えたことは、私にとって幸運だったと思います。就職説明会に参加したとき、「自分の可能性を広げてくれそうだ」と直感し、絶対に入社したいという一心で、義足であることも隠さず、自分を飾らず選考に臨みました。おかげで内定をもらえました。

金丸:今はどのような仕事をされているのですか?

谷:コーポレートサステナビリティ推進本部CSR推進部に所属しています。これまでに出張授業やワークショップを通じて、2万人以上の学生や子どもたちと触れ合ってきました。私の場合、障がいを持っていることだけでなく、東日本大震災以降は、被災地出身者としての活動も行っていて、これまで訪ねた全国各地の学校から応援メッセージを集めて被災地に届けたり、自転車レース「ツール・ド・東北」に参加して、コースとなっている海岸沿いの様子を紹介しています。

金丸:東京オリンピック・パラリンピック招致のスピーチでは、震災についても触れられていましたね。

谷:幸い家族は無事だったのですが、震災後は6日間も連絡が取れませんでしたし、実家は1階部分がぐちゃぐちゃで、とても住める状態ではなくなっていました。甚大な被害を目の当たりにして、自分にできることはなんだろうと考え、スポーツを通じて、被災した方々が自信を取り戻すお手伝いをしようと思ったんです。

金丸:私が谷さんのスピーチに感動したのは、あのスピーチが谷さんの人生、そのものだったからです。障がい、ご家族の被災、復興支援を通じて実感したスポーツの力。すべて谷さんの経験に基づいたものだったからこそ、すごく迫力があり、心に響きました。

谷:すごく緊張したんですが、一言一言に偽りはなく、すべてが自分の気持ちに沿ったものだったので、すんなり感情を込めて話すことができました。

金丸:スピーチと言えば、スタンフォード大学の卒業式で、スティーブ・ジョブズが行ったスピーチも有名です。彼もそのなかで、自身の生い立ちや闘病生活などこれまでの人生を語りました。その上で、一見無駄に思えることやつらい経験も、いつかは人生のどこかでつながる。人生において無駄なものはないと結びました。

谷:まさにその通りだと思います。私は病気をして以来、日常がいかにありがたいものかに気づかされました。おいしいものを食べられるとか、今日はこんな人に出会えたとか、一つひとつのことが本当に幸せとして感じられます。病気になる前よりも、今のほうが、幸せが増えましたね。

金丸:幸せが増える。素敵な言葉ですね。さて、これまで幾多の困難を乗り越えてきた谷さんから、今苦境と感じている人、困難に直面している人に対してメッセージをいただけますか?

谷:骨肉腫で入院していたとき、病室のみんなと「宝くじに当たるよりも低い確率の病気になるくらいなら、宝くじを買っておけばよかったね」なんて冗談めかして話していました。その‶当たり"を引いたのが、なぜ自分なんだろうと思い悩みもしましたが、そんなやり切れない気持ちと戦っていたときに、いつも力になったのは、母の言葉です。「神様はその人に乗り越えられない試練は与えないんだよ」。その言葉を10年以上も自分に言い続けてきた結果、それが信念になり、ちょっとやそっとうまくいかない時期があっても、「きっとこれは力を貯め込む時期なんだ」と考えられるようになりました。

金丸:いずれは困難を乗り越え、その先に成長があると信じられるようになったんですね。

谷:そうですね。ですから震災後、気仙沼の子どもたちにも、「こういうときこそチャレンジすることを諦めず、目標を持って、それに向かって前向きに頑張るエネルギーが大事だよ」と話し続けています。たとえ小さな達成感でも、前を向くための大きなきっかけになります。つらいときこそ、一つでもいいからチャレンジすること、一歩踏み出す勇気が大事なんです。

金丸:おっしゃるとおりです。東京パラリンピックでは、谷さんがご活躍する姿が見られると、信じています。今日は本当にありがとうございました。

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