ブラックタワー Vol.4

「二人きりになるのは、危険だとわかってるのに…」。密室で、男女が秘密を共有してしまった夜

ーまるでお城みたいに、高くて真っ白な塔。私もあそこの住人の、一人になれたなら…。

ずっと遠くから眺めていた、憧れのタワーマンション。柏原奈月・32歳は、ついに念願叶ってそこに住むこととなった。

空に手が届きそうなマイホームで、夫・宏太と二人、幸せな生活を築くはずだったのに。

美しく白い塔の中には、外からは決してわからない複雑な人間関係と、彼らの真っ黒な感情が渦巻いていたー。

憧れのタワマン暮らしを始めた奈月だったが、元不倫相手が同じマンションに住んでいることが判明し、窮地に立たされる。そしてさらに、ポストに謎の手紙が届いて…


ーなによ、コレ..?

黒い封筒の中身を見た瞬間、奈月はとっさに辺りを見渡した。幸い、ポストルームには自分一人しかいない。

―一体、誰が…?

突然届いた宛名のない封筒には、重厚な見た目の割に、一枚の紙が入っているだけだった。しかし、それを見た奈月は全身の血の気が引き、胸にズシリと重石を乗せられたような錯覚に陥った。

『お前の秘密を知っている。あの部屋から出ていけ。』

明朝体でタイプされた無機質な手紙だが、奈月にショックを与えるには十分すぎる内容だ。

誰にでも、秘密の一つや二つはあるだろう。だけど、この手紙が暗示している"秘密"が何のことを意味しているのか、奈月にははっきりとわかった。

黒い封筒に紙を再び突っ込むと、自分の部屋へと急ぐ。ポストルームから出たときにコンシェルジュから声をかけられたが、急いでいて聞こえないふりをした。

夫が帰ってくるまでに、黒い封筒を処分しなければ。

焦った奈月は、20階に着くや否や、ゴミ捨て場に直行する。黒い封筒を取り出すと、出来る限り細かくちぎり、カバンに入っていたコンビニのビニール袋に入れ、その口を硬く縛った。

燃えるゴミ入れの奥深くに袋を放り込むと、扉の前で頭を抱えた。

ー永田さんとのこと、誰かが知ってるっていうの?一体、何でこんなことを…。

ギギッ

そのとき扉が開く音がして、奈月は驚いて顔をあげる。

「あっ…」

目の前に立っていたのは、先日、ドアの隙間から覗いていた気味の悪い男…室井だった。しかしそんな室井も、ゴミ捨て場に青白い顔をした女がいるのにはさすがに驚いたのか、戸惑いの表情を浮かべている。

「スミマセン、すぐ出ます…」

慌てて立ち上がり、その横を急ぎ足で通り抜けようとしたとき、室井がボソリと呟いた。

「あんた、コレ」

初めて聞く隣人の声に振り返ると、室井は、黒い封筒の切れ端を手に、こちらを見つめていたのだった。

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