30歳の誕生日までにプロポーズされたい。切実な願いを無視された女が、それでも彼と別れない理由


「彼…博之との出会いは2年前。学生時代の友人が紹介してくれたんです。同い年で、製薬会社のMRです。忙しいみたいで頻繁には会えないけど、私は私で趣味もあるしちょうど良くて。何の不満もないまま、気づけば付き合って2年が経ちました」

28歳で出会ったふたり。適齢期の男女なのだから早々に結婚の話が出てもおかしくない。ところが彼からは結婚を匂わすような発言も素ぶりも全くなかったという。

「彼...なんていうかのんびりした性格で」

苦笑いをして、ティーカップを口に運ぶ千絵。

30歳手前の女性と交際しておきながら、結婚の「け」の字も出さない彼氏。そんな男のことを「のんびりした性格」と評する彼女の方こそ、随分とのんびりしているように思うが...。

実家暮らしという安定した基盤がそうさせるのか、元々の性格なのか。

巷のアラサー女たちとは異なり、千絵はこれまで特に結婚への焦りを感じてこなかったらしい。

しかし結婚願望がないのかと尋ねてみると、即座に否定した。

「結婚はしたいです、もちろん。子どもも大好きだから絶対に産みたいし。博之がプロポーズしてくれるならすぐにでもって思ってました。でも博之が何も言ってこないから仕方ない。彼には彼のタイミングがあるんだろうし、待ってあげるべきなんだろうなって思うようにしています」

「私、いい女でいたかったから...」千絵は呟くようにそう付け加えると、寂しげに笑った。

しかしそうこうしているうちに、アラサーの時間はあっという間に過ぎていく。

気がつけば交際2年が経ち、いよいよ20代も終わろうという時になって、千絵は友人たちから口々に助言されたらしい。

「結婚したい気持ちがあるならこれ以上ずるずるしない方がいいって、何人にも言われました」

結婚する気がないなら別れるくらいの強気でいくべきだ、と言った友人もいたという。

千絵としてはそこまでの覚悟も焦りもなかった。しかし30歳の誕生日を目前に控えても何の変化もない博之の態度に、少なからず不信感を抱いていたのも事実だった。

「誕生日の3ヶ月ほど前だったかな...。博之に話すことにしたんです。私と結婚するつもりがあるなら、30歳になる前にプロポーズしてほしいって。そうじゃないとこれ以上待てるかどうかわからない、とも言いました」

すると彼は呆気ないほどあっさり「わかった」とこたえたという。

「あまりに簡単に頷くから、本当にわかってる?と思いましたけど…ただ博之は元々こういうのが好きじゃないんですよ。こういうのって言うのは、女が結婚を迫ったり、責めたり、口うるさくするのが。…それを知ってるから、私ももうそれ以上はしつこく言えなくて」

だがしつこく言わなかった結果、千絵は自分で自分の首を締めることとなる。

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