実家暮らしの恋 Vol.10

本命彼女がいるのに、他の女に見惚れた夜…。誘惑に負けて一線を越えかけた男への、不穏な着信

東京で1人暮らしを始める際、家賃の高さに目を疑う人も多いのではないだろうか?

特に23区の人気エリアでは、狭い1Kでも10万円を超えることはザラ。まだ収入の低い20代の若者たちの中には、“実家暮らし”を選択する者も少なくない。

家賃がかからない分可処分所得が多くなり、その分自分の好きなことにお金を使えることは、大きなメリットだ。

大手総合商社で働く一ノ瀬遥(28)も実家住まいだったが、彼氏ができ同棲生活がスタート。しかし家事に不慣れな遥は仕事との両立に苦しみ、かつ彼氏の圭介とすれ違いが続き、今の生活に疑問を持つように。

そんなとき、2人は初めて別々の週末を過ごすことになる。遥はみなみに誘われたホームパーティーへ、圭介は恵美理と料理教室へ繰り出す。それぞれが別々の時間を過ごす中、圭介は恵美理のハニートラップにはまる。

しかしちょうどそのとき、遥は弟から最愛の母が倒れたという連絡があり……!?


代々木上原の『メゾン サンカントサンク』のカウンターで恵美理と並んで座っている圭介は、いつもよりとろりとした表情になっている彼女を、不思議な気持ちでちらちらと見ていた。

つい先程まで、「後輩」としか見ていなかった女性。可愛らしくはあるが、自分を頼り慕ってくれる妹のような存在という意味で、それ以上の感情を抱いたことは全くなかった。

それなのに、先ほどまで羽織っていたカーディガンを脱いだ時に覗いた華奢な肩、サングリアのグラスを持つ綺麗な指先を見ていると、ほんの一瞬でも、これまで恵美理に抱いていた以上の感情を超えそうになる、と圭介は気付いていた。

―これ以上一緒にいるのは、まずい…

「恵美理ちゃん」

「もう帰ろうか」と言いかけたときだった。

恵美理の右手が、すっと圭介の左手に触れた。

「圭介さん、私圭介さんと一緒だと、いくらでも飲めてしまいそう…」

潤んだ瞳で圭介をちらと見つめる恵美理。その目は、いつもの無邪気な後輩ではなく、「オンナ」の光を放っており、圭介は動揺した。

―もう、帰らないと…。

すっと目を逸らす。

「とりあえず、出ようよ。ここは俺が」

圭介は会計を済ませる。店員からカードを受け取るとき、パンツの右ポケットに入れていたスマホが震えた気がしたが、ここを早く立ち去ったあと見ればいいと思い直した。

ありがとうございました、と店員に見送られ、店の扉が閉まる。

ブーッ、ブーッ、ブーッ、ブーッ。

やはり先ほど感じたスマホの振動は、気のせいなんかではない。圭介は右の後ろポケットに手を伸ばす。取り出すのに少し戸惑い、やっと出せた途端に電話は鳴りやんだ。

スマホの画面に一瞬「遥」と表示されていたのを見た瞬間、左手に温かく柔らかなものを感じた。

先ほど見惚れていた細い指が、しっかりと絡まっていたのだった。

「圭介さん…私、圭介さんの大変そうな姿、見ていたくないんです。圭介さんのお手伝いがしたいんです。公私ともに」

圭介は、恵美理の目を見つめる。彼女の瞳は潤み、いたいけな仔犬のようでも、夜露に濡れた花びらのように妖艶でもあった。

ブーッ、ブーッ、ブーッ…

右手に持っているスマホが、もう一度振動する。

「恵美理ちゃん…」

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