羽田空港STORY Vol.1

羽田空港STORY:絶対パイロットには恋しないと誓っていたのに。競争率数百倍の、女たちの争奪戦

利用旅客数世界屈指の大空港・羽田。

そこには、行き交う人の数だけ、ドラマがある。

日常と非日常。出会いと別れ。

胸を締め付けるほどの期待と、心がちぎれるほどの後悔と。

想いは交差し、今日もここで「誰かの人生」の風向きが、ほんの少しだけ変わるのだ。

これは、羽田空港を舞台に繰り広げられる、様々な男女のオムニバスストーリー。

今回は、グランドスタッフとして働く芽衣の物語。


14時15分。

「お、終わった…」

思わず気が抜けて、声が出た。

機体がゲートからゆっくりと離れていき、コックピットからパイロットが手を振っている。必死に走り回った私たちを、労うように。

「ありがとう」と、キャプテンの口が大きく動いている。無事に飛行機を出発させることができたと、ようやく笑みがこぼれた。



空港地上職、いわゆる"グラホ"の朝は早い。

午前3時30分。ベッドからゾンビのように身を剥がして起き上り、血色3割増のエアライン流メイクをして、ヘアオイルとスプレーで一糸乱れぬまとめ髪を作り、マンションの前で待ち構えるタクシーに飛び乗ったのが4時10分。

4時25分空港到着。ロッカーで着替え、身だしなみチェック、4時45分に業務開始。

12時過ぎ、まもなく早番シフト終了という時に、悪天候のため飛行機がエアターンバック(着陸せず、出発空港に引き返してくること)という連絡が入り、遅番に引き継ぐだけでは人手が足りず残業決定。

お客様をなんとか空いている便に振り替えたり、キャンセルしたり、てんやわんやで、結局ランチ休憩返上で働いたのだ。

「芽衣、お疲れー!」

ロッカーに入ると、同じく早番だった同期のゆかりが、信じられない速さで制服を脱いで出ていくところ。

「ゆかりお疲れ様。今日も仮眠室からのお食事会?」

早いシフトは昼過ぎに終わる。しかし世に言うお食事会はどんなに早くても19時から。よって早番終了後は、数少ない休憩室の仮眠チェアが争奪戦となる。体を休め、夜に備えるのが定番だ。

「ちがーう違う、芽衣ったら、明日のこと忘れたの?」

「へ?何だっけ?」

「これだから"お仕事大好き堅物メイちゃん"は…。明日は、黄金の卵・パイロット訓練生が地上研修に投入される日じゃない。決戦の金曜日よ!今日はジムとエステと半身浴で磨き上げるの。残念ながら私は、OJT教官にはなれなかったけど…勝負はここから。じゃあね、お疲れ!」

鼻息荒くゆかりが飛び出すのを送り出した私は、きっとうつろな表情だったはず。

そう、今期のパイロット訓練生の空港業務研修で、ゆかりを始めとする多くの同僚を差し置いて、彼らのOJT教官のひとりに指名されたのは…私なのだから。

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