IT社長とセレブ婚目前だった女が、土壇場で婚約破棄した理由

「なに色目使ってるんだよ。安い女だな」

吐き捨てるように言われ、文乃は耳を疑ったと言う。

「色目も何も…。ただ世間話してただけですからね。もちろんそう説明したけど、もうだめ。聞く耳を持たないんです。結局私が何度も何度も謝ってようやく機嫌を直してくれたけど、さすがにこの人ちょっと異常かもって怯えちゃって」

肌の露出だけでなく、聡は文乃がどんな事情であれ、他の男と接点を持つことすら許せないらしかった。

「たまたま彼が休みの日に宅配便が来たんです。そしたらスタッフが若い男の子で。ヤバイなって思ったら案の定。普通に愛想よくやりとりしてただけなのに、後からネチネチ嫌味言われて…」

文乃はそう言って、わずかに顔をしかめた。

「こんなのは愛じゃない。私はあなたの所有物じゃない!って、一度彼に訴えたことがありました。だけど10歳も年上で、生活の全てを握ってる彼と私じゃそもそも力関係が違う。さらには頭の回転の速さも違う。どんなに冷静に、丁寧に“おかしい”と伝えても、“おかしいのは君だ”って論破されちゃうんですよ」

こんな生活を続けていたら、完全に“聡のモノ”になり下がってしまう。

そんな危機感を覚えた文乃は、聡との別れを決意。すでに式場予約まで済ませた後だったが、最後は逃げるようにしてマンションを飛び出したと言う。

束縛から逃れ、手に入れた自由


「家を飛び出したものの…彼と婚約してすぐに仕事も辞めちゃっていたから、住む家を探すのも大変でした。でもなんとかしてみせる!と動き出せば、運も味方してくれるんですよね。たまたま、昔知り合った不動産会社の社長から事務スタッフを探してるんだけどって連絡をもらって。そのまま雇ってもらうことができたんです」

しばらく男の庇護のもとで暮らしていた文乃だったが、働き出し、自分の生活を少しずつ取り戻すにつれ、自分の内側からみるみるパワーが湧き出てくるようだった、と語った。

聡の手前、我慢していたファッションも楽しむようになった。

インスタグラムに載せる #OOTD には毎回1,000近いイイネがつき、「文乃さんのファッションを参考にしたい」「文乃さんと同じお洋服が欲しい」などのコメントやDMが届く。

ファッションの楽しさを再認識した文乃は、不動産会社で事務をしながら、副業でネットショップを開始。最初は韓国などで仕入れた小物を販売するだけだったが、1年後にオリジナル商品を取り扱うようになったら爆発的なヒットを遂げた。

現在文乃は不動産会社の仕事を辞めており、先述の通り、ネットショップだけで十分な収入を得られるまでになっている。

「当たり前ですが、今は自分で稼いだお金で好きなものを買い、好きな服を着ています。誰にも文句を言われたくないし、言わせません」

そう言って楽しげに笑う文乃の指には、パールやカラフルな石のリングが自由に輝いていた。


▶NEXT:3月12日 火曜更新予定
30歳過ぎて、親を持ち出す男

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