SPECIAL TALK Vol.50

~「どうなりたいか」ではなく「何ができるのか」。豊かな海を取り戻し、未来に引き継ぐために~

原因不明の体調不良に悩まされた幼少期

金丸:お生まれはどちらでしょう?

坪内:福井県福井市です。

金丸:ご両親はどんな方ですか?

坪内:父は事業家で、保険業やレンタル業を営んでいました。さらに言えば、祖父も事業家です。

金丸:実業家の家系なんですね。

坪内:父は忙しく、私が学校に行くときには寝ていて、私が寝たあとに帰ってくるという感じで。でも、毎週必ず家族全員で出かけていましたね。父は車の運転が大好きで、週末には自宅から2、3時間でたどり着ける金沢や三重県に母、私、そして妹を連れていってくれました。

金丸:毎週必ず、ですか?

坪内:受験だろうと、テストだろうと。夜10時に帰ってきて、「今から出かけるよ」と車に乗せられ、夜中に高速を走って朝起きたら、ディズニーランドということも。

金丸:それはすごい家族サービスですね(笑)。

坪内:中学2年生のとき、思春期ということもあって「明日からテストだから、私は行かない」と言ったことがあるんです。すると母が「私たちがみんな事故で死んで、ひとりだけ残されても知らないからね」と(笑)。

金丸:ええっ!? お父様ではなくお母様が。

坪内:はい、母もちょっと変わった人で(笑)。

金丸:ところで、将来の夢は何でしたか? やはり実業家になろうと?

坪内:いえいえ。子どもの頃になりたかったのは、キャビンアテンダントです。それが叶わなかったのは、私の体質が原因でした。生後2ヵ月のときに高熱を出し、髄膜炎を疑われました。あちこち検査したけれど原因不明で、3、4歳くらいまで入院して。それ以降も定期的に熱が出て、1ヵ月元気に過ごしたら、1ヵ月は熱が出るという生活でした。

金丸:原因不明ですか……。

坪内:原因は、EBウイルス感染症と化学物質過敏症だったんですが、それがわかったのは、19歳のとき。それまではまったくわからないまま、ずっとしんどい状態が続いていました。

生きづらさを覚え〝海の向こう〞に憧れる

坪内:幼稚園で『海』という歌を習いますよね。「海は広いな大きいな」「行ってみたいな、よその国」という歌詞が、私の心にすごく残りまして。ここじゃない、まったく違う世界に行けば、私も変われるような気がして、大きくなったら船乗りになりたいなと。それを母に話すと、「女の子がなれる職業じゃないわよ」と言われました。

金丸:そんなにはっきりと。

坪内:しばらくして、テレビで見た飛行機のパイロットに憧れ、「私も自分で操縦して、好きなところに行きたい」と母に言ったところ、今度は「虫歯があって目が悪かったら無理よ」と。

金丸:なかなか厳しい(笑)。

坪内:じゃあ、何だったらいいんだろうと思っていたんですが、小学1年生のときに飛行機で家族旅行をした際、母が突然「CA(キャビンアテンダント)になりなさい」と。「ビジネスクラスやファーストクラスの担当になれば、アメリカ人と結婚できてアメリカに行けるわよ」って。さらに「お母さんの骨はお墓に入れなくていいの。お母さんをアメリカに連れてって。骨はそっちにまけばいいから」とまで。

金丸:お母様、強烈なキャラクターですね(笑)。

坪内:そんなむちゃくちゃなことを言われながらも、いつか母をアメリカに連れていこうと、ずっとCAを目指して勉強してきました。海外に慣れておくために、高校時代は1年間、オーストラリアにも留学して。そのオーストラリアで、なぜか急に何も気にせず、ものを食べられるようになったんです。驚きました。そのときは理由がわからなかったんですが、オーストラリアはオーガニック先進国。食べ物がなじんだんだと思います。

金丸:なるほど。私が子どもの頃は、アレルギーなんて誰も気にしていませんでした。給食も生徒が「どうしても食べられない」と言っているのに、先生が食べ終わるまで許してくれなかったり。

坪内:私も放課後までひとり残って食べていましたよ。みんなは「おなか空いたー」とガツガツ食べているのに、私の体は拒絶する。みんなが普通に食べている給食が、喉を通らないんです。なぜなんだろうと不思議で、日本での生きづらさを感じていました。

金丸:日本の農作物は安心・安全と言われますが、野菜は見た目のきれいなもの、形が整っているものを消費者が望むから、それを実現するために農薬を結構使っている。その結果、国際的な基準を満たせず、海外に輸出できないんですよね。

坪内:魚にしても基準に合致して輸出できるのは、ほんの一握りですからね。

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