2018.09.21
SPECIAL TALK Vol.48外科医になるも、臨床医の限界を知る
金丸:もともと医者に興味がなかったということですが、そんな杉本少年がなぜ医学部に?
杉本:最終的に医学部受験を決めたのは、高校3年生のときです。
金丸:ぎりぎりの決断だったんですね。
杉本:人が好きなので、人を相手にする仕事がしたかったのと、漠然とですが誰かの役に立ちたいとずっと思っていました。それでいろいろ検討するうちに、医者にたどり着いたんです。当時読んでいた本の「戦争や経済破綻で国がなくなっても、医者は医者でいられる」という一節に感動した、というのもあります。
金丸:政治家や経済学者は、国がなくなったり制度が大きく変わったりすると職を失いますが、医者は人間がいる限り出番がありますからね。
杉本:そうですね。映画を見ても、無人島や宇宙船といった隔離されたシチュエーションでも、登場人物には必ず医者がいますし(笑)。
金丸:最初から外科志望だったんですか?
杉本:はい。自分の手で悪いものを取るっていうシンプルな点がいいなと。技術を身につければ組織に依存することなく働けて、独立もできるので。
金丸:独立志向はもともとあったんですね。ご専門は?
杉本:肝臓、胆道、膵臓の消化器が専門ですが、胃や腸も診ますし、最近ではいろんな科をまたいでいて、昨日は前立腺の手術をしました。
金丸:そうなんですか。医師になられて、一番感じたことは何ですか?
杉本:それは、外科医の限界を思い知らされたことです。自分の手ひとつで何でも取れると思っていたけれど、取れないものももちろんあるし、一人じゃ手術もできません。1回の手術には何人もの医師が必要で、時間も8、9時間ほどかかる。それでも、一人の患者さんしか救えない。長く臨床をやっているとそこに疑問を感じて、私が外科医をサポートする側に回るべきじゃないかと考えるようになりました。そうすれば、同じ時間でもっと多くの患者さんを救えるのではないかと。
金丸:医療にイノベーションをという杉本さんの挑戦は、そこから始まったんですね。ただイノベーションといっても、いろいろなアプローチがあります。なぜコンピュータ技術に着目したのですか?
杉本:きっかけは、地方の病院への転勤です。医学部を卒業後、帝京大学附属病院で働いていたんですが、千葉県市原市の分院で一気に多くの欠員が出てしまい、補充要員として派遣されることになりました。2004年のことです。
イノベーションの動機は「疲弊した現場を救うこと」
金丸:都内の大学病院と地方の病院では、そんなにも環境が違うのでしょうか?
杉本:地方は厳しかったですよ。本院のような最先端の技術や設備はないし、地域に根ざした医療なので、外来の患者さんがとても多くて。一番多いときは、一日に270人を診察していました。
金丸:そんなに!? 重労働ですね。
杉本:みんな疲弊していました。外来だけで一日が終わってしまう。でもやっていることといえば、カルテを書いてハンコを押して、いつもと同じ薬を出すという、言ってしまえばほとんどが流れ作業です。
金丸:医師にとっても患者にとっても、よくない状況です。
杉本:だから、なんとかして現場の業務を効率化していかないと、そのうち破綻すると本気で思いました。それでまず目をつけたのが、レントゲン画像のデジタル化です。
金丸:昔ながらのレントゲンフィルムは、大きくて重くて、かさばりますよね。
杉本:運ぶだけでひと苦労なんですよ。ちょうどその頃、CTという輪切りのレントゲン画像に革新が起こり始めていて、いろいろな方向から撮った複数のCT画像を使って3次元の画像を生成するソフトを、2003年にジュネーブ大学が公開したんです。
金丸:平面の輪切りの画像を、立体に起こしてくれるということですね。
杉本:これは、ものすごくインパクトがありました。しかもオープンソースとして配布されていたので、無償で利用できるし、自分で改良することもできる。周りの医師に実際に3次元化した画像を見せたら、「面白い!」「ぜひやろう」と、すごくいい反応で。
金丸:それが医療効率化の第一歩だった。
杉本:はい。恵まれた環境じゃない地方の病院だったからこそ、思い切って始めることができたと思います。それにレントゲン画像の3D化は、単なる効率化で終わりませんでした。
金丸:というのは?
杉本:私たち医者は、平面の画像をもとに立体をイメージし、「こういうふうに手術しよう」と計画を立てます。それが最初から立体画像で臓器を見るわけですから、よりリアルに手術の流れをイメージできるようになりました。
金丸:精度のアップも期待できますね。
杉本:疲弊していた医者たちが3D画像を見た途端、目の色を変えたのを今でもよく覚えています。それだけ魅力的な技術でした。
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