有馬紅子 Vol.7

「この女をエサにしよう…」悪質な客に、“使えない令嬢社員”を差し出した上司の、腹黒い計算

深窓の令嬢が、超リッチな男と結婚。

それは社会の上澄みと呼ばれる彼らの、ありふれた結婚物語。

有馬紅子(ありま・べにこ)もそんな物語の一人として17年間幸せに暮らしてきた。

しかし突然、夫・貴秋が若い女と駆け落ち同然で家を出てしまい、紅子のプライドは消えかける。

就職先を探して新たな一歩を踏み出すが、そこには様々な女たちの罠と思惑が張り巡らされ…。

ある日の仕事中、「あなたが役に立つ」と言われて連れ出された紅子だが…?

「社会経験、ほぼゼロ」。有閑マダムのレールから強制的に外された女・有馬紅子のどん底からの這い上がり人生に迫る。


トップセールスマン・小河利佳子の思惑:「有馬さんを餌にする」


小河さん。あなた達のせいで…娘の結婚式が無茶苦茶になるのよ」

私達を呼びつけたクレーム主の吐き捨てるような言葉に、私は今日何度目かの頭を下げると、有馬さんが私と同じ動作でそれに続いた。

ここは、渋谷区大山町のとある邸宅。

明治の時代から由緒正しいお屋敷街として存在し続けるこのエリアの中でも、高台の一等地に存在する鷹橋(たかはし)家。

鷹橋家は、「Bella Onda(ヴェッラ オンダ)」の顧客さまであり、以前は私が担当していたのだが、数ヶ月前に担当を交代していた。

しかし、特注した商品に不備があった、というクレームが入り、私が指名され、有馬さんと共に自宅へ来たというわけなのだが。

「貴方が最後まで、娘の注文の担当をしてくれていれば、こんなことは起きなかったかもしれないのにねえ」

花嫁の母である鷹橋千穂さまの、甲高く嫌味な口調と怒りの熱は一向に収まる様子はないが、一度全ての不満を吐き切ってもらうまでは、こちらの言い分は主張しないと決めていた。

豪奢な客間がどんどんヒステリックな空気に染まって行く中、私は、隣に並ぶ有馬さんの顔を盗み見た。

客間に通されたのに座らせてもらえないことも、金切り声で罵られることも初めてなのだろうに、まるで動じず、乱れない。むしろ慈悲深い表情を浮かべているようにさえ見えて、私の胸の奥が、またジリッとしてしまう。

ー自分だけ…聖人君子だとでも思っているのだろうか。

正直なところ、私は有馬さんのような、人を疑うことを知らず綺麗ごとだけで生きているような人が苦手だ。仕事上は差別せず向き合い指導もするが、深入りするつもりもない。

―まあ今回は…有馬さんを利用させてもらいますが。

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