SPECIAL TALK Vol.47

~子どもたちが幸せに暮らせる国になるように、自分の何が生かせるかを考え抜く~

次世代が生きる社会を作るのは自分たちの世代の責任

金丸:お話を伺っていると、子育ての経験が政府委員としての翁さんの発言に結びついているのがよくわかります。しかし、会議に出席していると、時折翁さんから怒りのオーラを感じることも(笑)。

翁:ご一緒した規制改革会議ですね。官僚の方が反対のための反対ばかりだとつい(笑)。やはり子どもを持ったことで、次世代のことを自分たちの世代の責任として、真剣に考えるようになりましたね。「この子たちに将来、幸せになってほしい」と思う以上、やれることはやっていきたい。与えられた機会には全力を尽くしたいと考えています。

金丸:翁さんの強い意志と正義感を感じます。

翁:正義感というより、社会のために自分を生かす、といった言葉のほうがよりしっくりくるかもしれません。そういう根っこの部分は、田園調布雙葉で養われたように感じます。小学校の朝礼のとき、古い木造の校舎でシスターの校長先生が聖書の話をしてくれました。私は信者ではありませんが、いくつかのエピソードは、今でも心の奥に残っています。

金丸:子どもの頃の経験って重要ですよね。その経験が、仕事を通じて翁さんの価値観を醸成した、といえるのでしょうか。

翁:そうですね。それに日本総合研究所での経験も大きいです。私が転職したのは、バブル崩壊直後の1992年なんですが、日本銀行からシンクタンクに移り、個人としての発言の自由度が上がったと同時に、自分の研究分野であった、不良債権問題に関する意見を求められることが非常に多くなりました。30代半ばで、金融制度調査会の委員を務めることにもなりまして。金融機関の破たん処理を進める必要があったのです。

金丸:破たん処理は時間が勝負ですよね。

翁:政府での会議のたびに、冒頭で大手信用組合などの破たんが報告され、「申し訳ございません」というお詫びから始まる危機的な状況でした。いろいろな制度の整備が後手に回り、このままではまずいと本気で感じていました。だから自分の立場や年齢などで気後れせずに、必要と思うことは言わなくては、という気持ちになったのをよく覚えています。

シンクタンクのトップとして果たすべき役割とは

金丸:日本総合研究所に入社し、主席研究員、理事、副理事長を経て、今年、理事長に就任されました。女性でシンクタンクのトップというのは、非常に珍しいですよね。

翁:他のシンクタンクでは、政府などの要職を務めた方が理事長を務められることも多く、「理事長を」と言われたときは本当に驚きました。正直、私で務まるのだろうかと。でも指名を受けた以上、女性ということはあまり意識せず、私なりの新風を吹き込めればと思っています。

金丸:日本総合研究所が今後果たすべき役割について、翁さんはどのようにお考えですか?

翁:持続可能な社会への貢献が、大きなテーマだと考えています。よく“cool head but warm heart”と言われますが、物事を冷静かつ客観的に分析し、持続可能なよりよい社会に向けて、温かみのある提言をしていくことは、やはり大事です。特に日本は今、人口減少と超高齢社会という大きな課題を抱えています。一方で、デジタルイノベーションの動きは速い。日本総合研究所には多くの研究員がいますので、多様な視点からオリジナリティのある研究とリサーチを、社会に向けて発信していけるとよいと思います。

金丸:では翁さん自身としては、どのような目標を?

翁:そうですね、私なりの視点で課題を分析し、発信していくことでしょうか。専門の金融分野とともに守備範囲を広げて、日本経済にとって重要な部分に提言を続けていきたいですね。ヘルスケア、医療、介護、保育などの社会保障の分野は、エコノミストとしての視点に加えて、女性や利用者の視点などが大切ですから、自分のこれまでの経験を生かせるのではないかと。

金丸:なるほど。国は「一億総活躍社会」の実現に向けて、女性の社会進出を後押ししていますが、一方で当の若い女性たちは割と諦めているように感じることがあります。「仕事を頑張ったところで苦労ほどリターンは大きくないし、それよりもいい人と結婚するのがゴール」と考える人も少なくないように思います。

翁:そうですね。でも可能性なんて、やってみるまでわかりません。私も子どもの頃は「もっと積極的に」と言われ続けていましたから。

金丸:政府系会議のメンバーが聞いたら、本当にびっくりしますよ(笑)。おとなしい翁さんなんて、みんな想像できない。

翁:未来には可能性が広がっているのだから、女性のみなさんには自分の足で、自分なりの人生を切り拓いていってほしいですね。結婚しても、キャリアは築いていけます。

金丸:そのためには、理解ある男性を見つけないといけませんね。

翁:私の場合、夫が育児や家事を手伝ってくれたので、本当に助かりました。今は夫婦一緒に子どもを育てる時代です。ハードルは下がりつつあります。だからチャレンジしないと、もったいないですよ。

金丸:もったいない。おっしゃるとおりです。

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