恋と友情のあいだで 〜里奈 Ver.〜 Vol.10

「彼と、朝まで一緒にいたい」恋に溺れ、理性を失った人妻が犯した愚かなミス

理性を失った人妻が犯した、愚かなミス


「未祐、お願いがあるの」

直哉の夕飯を用意し、廉の元に向かうタクシーの中、私は急いで未祐に電話を入れた。

「今夜、未祐と一緒にいることにしておいて欲しいの。お願い」

半ば開き直ったとはいえ、万が一の際の保険は必要だ。私は時間に追われながらも、学生時代から何度も悪巧みを働いた彼女に協力を得ようとした。

「どうしたの?珍しいね、里奈。何かあった?」

「うん...。大したことないんだけど...、ちょっと...」

とにかく早く廉に会いたい。そう焦るあまり、特に口実も考えていなかったことに気づく。もちろん正直に事情を説明できるはずもなく、私は無様にも口籠もってしまう。


「...廉くん、でしょ?」


しかし未祐は、そんな私の心の中を呆気なく見透かした。

「えっ...」

「やっぱりね。そんな事だろうと思ったよ。オーケー、もちろん大丈夫よ。何かあった時は任せて」

悪戯っぽく笑ってくれた彼女には、感謝しかなかった。私は「ありがとう」とだけ答え、電話を切る。


後から思えば、何と愚かな行為をしたのだろう。

あれほど無防備に人に頼るなんて、あまりに浅はかだったとしか言いようがない。

でもあの時の私は、10年越しに結ばれた廉との熱に浮かれていて、完全に冷静さを失っていたのだ。

人の口に、戸は立てられない。そんなことは、もっと若い頃から嫌というほど分かっていたはずなのに。




結局、私が廉と会えた頃には、日が暮れていた。

再びホテルの一室に足を踏み入れ、廉の姿を視界に入れた途端、これまでの緊張が一気に解けて安堵に包まれる。

「ごめん、遅くなって。夫が出張を早めて帰って来ちゃって...」

そう説明し終える前に、私はすでに彼の腕の中にいた。

21時には羽田に向かう廉と私に残されたのは、ほんの少しの時間。

次はいつ会えるかも分からない。時間に迫られた二人に、余計な言い訳も建前も必要なかった。

あるいは、この脆い状況で下手に会話を交わそうものなら、一気に重い現実に迫られることを、お互い本能的に避けていたのかもしれない。

しかし、ひとしきり抱き合ったあと、廉は私の髪を撫でながら静かに言った。

「...実はさ、フライト、朝に変更した」

「...どうして?」

「なかなか連絡来なかったから。...良かったよ。もう一度ちゃんと会えて」

シーツに顔を埋めた廉の、低くくぐもった声を聞くと、胸に甘酸っぱい感情が込み上げる。

「...奥さん、大丈夫なの?」

「...そっちは?」

そうして顔を合わせると、私たちはまた吹き出してしまった。

不思議なほど、“悪いことをしている”という感覚はなかった。

こうして肌を重ねたあとでも、私たちはまだお互いにどこか“友だち”の感覚が残っていて、今のこの状態は単純に「収まるべく場所に収まった」と思えたからだ。

直哉も廉の奥さんも、単なる外野に過ぎないような気がしていたし、面倒なことは一切考えたくなかった。

この時の私の願いは、たった一つ。

―廉と一緒に、このまま朝まで眠りたい。

ただ、それだけだったのだ。


▶NEXT:8月29日 明日更新予定
情欲に溺れ、盲目になる里奈。しかし、シンガポールに戻った廉は「現実」を突きつけられる...

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

この記事へのコメント

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No Name
先に浮気して裏切ったくせに、モラハラ夫すぎて腹立つ

女性に愛想尽かされたら最後だよ、里奈を悪く思えない
2018/08/28 06:1999+返信6件
No Name
全員、アウト
2018/08/28 05:1299+返信2件
ケロック
蓮の奥さんが妊娠してるんじゃないかな?
2018/08/28 05:1599+返信10件
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