恋と友情のあいだで~廉 Ver.~ Vol.9

「妻への罪悪感は、ない」婚外恋愛に溺れた商社マンの、身勝手な欲望と小細工

廉:タブーを犯した夜


「そんなつもりじゃなかった」

…なんて、いまさら里奈にはとても言えない。

いや、しかし、これは僕の本音である。

「廉の部屋に連れて行って」

あのとき里奈が、そんなセリフを言わなければ。

そうすれば、僕はどうにか理性を保ったままタクシーで送り届けていたはずだし、部屋でふたりきりになった後も、彼女が抱きついてきたりしなければ、一線を超えることだけはなかったと思う。

それは僕が道徳的だとか、自制心があるとかいう話ではない。

情けない話だが、僕は昔から里奈を前にすると、ただただ臆病で弱気な男に成り下がってしまうのだ。


「里奈を、自分だけのモノにしたい」


「ずっと廉と、こうしたかった…」

ホテルの部屋で、ふたりきり。

一糸まとわぬ姿になった里奈が、瞳を潤ませそう呟いたとき。

僕の中で何かがプツン、と音を立て、抑えていた感情が堰を切ってあふれ出した。

「里奈、里奈、里奈…」

そうしていったん箍(たが)が外れてしまうと、もう流れだす欲望を止めることは不可能だった。

遠慮がちに触れるだけでは満たされず、僕は夢中で彼女を抱き寄せ、柔らかな肢体に唇を押し当てる。

すると里奈も、そんな僕に呼応するようにして切なげな吐息を漏らす。その妖艶な表情は、かつてのどの瞬間よりも僕の心を揺さぶるのだった。

けれどもう、強がる必要はない。里奈を愛しいと思う気持ちを、我慢せず放出していいのだ。

その開放感は、自分でも恐ろしくなるほどの快楽で僕に迫った。

そっと暗闇で目を凝らすと、これまで決して強気な態度を崩さなかった里奈が、すべてを曝け出し、さらには不貞というタブーを犯してまで僕を受け入れている。

その、あまりに刺激的な光景を見下ろしながら、僕は先ほど未祐が不用意に漏らしたあの言葉を思い出していた。

−里奈、もう旦那とは“したくない”みたい−

…もちろん、真偽は知らない。しかし旦那とはしたくない、と言ったらしい里奈が、今、目の前で本能のままに僕を欲している。

その事実は僕をどうしようもなく高揚させ、さらには里奈に対し、あまりに身勝手で、不謹慎な感情を呼び起こすのだった。

里奈を、自分だけのモノにしたい。

その思いは、華奢で滑らかな身体の線を探るたび、瑞々しい肌の感触を確かめるたびに肥大していき、ふたり同時に果ててしまった後も消えることはなかった。

この記事へのコメント

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No Name
結衣、自分で正義感からやったって正当化しようとしてるあたりがあまり好きじゃないかも。
ただ単に、囃し立てた方が面白いからで良くない?笑
2018/08/22 05:2699+返信10件
No Name
結衣だったかー!名前すら忘れてた(笑)
2018/08/22 05:1699+返信6件
No Name
出た、「そんなつもりじゃなかった」。誘ったのはリナで、僕じゃない。ほんっと卑怯未練なクズ男!
2018/08/22 05:3299+返信9件
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