恋と友情のあいだで 〜里奈 Ver.〜 Vol.8

「共犯意識」で結ばれていく既婚の男女。嫉妬に狂った人妻が、禁断の域に踏み込んだ夜

既婚となった男女の、「友達以上、恋人未満」


気づけば廉と私は、知り合ってからの長い年月の中で、かつてないほどお互い素直に接するようになっていた。

以前は廉の前で強がってばかりだったのに、彼が結婚してからというもの、これまで持っていた敵対心や対抗心のようなものは嘘みたいに消滅した。

プライドが高く負けず嫌いで、他人に弱みを見せるのが苦手。

私たちにはそんな共通点もあったから、“独身の男女”という無防備な立場では、この戦々恐々とした都会で味方として寄り添うことが難しかったのかも知れない。

よって皮肉なことに、お互いに既婚者となって初めて、ようやく友好的な接し方を学んだのだと思う。

かと言って、この時点では異性として明確な感情が芽生えていたわけでもなかったはずだ。

だが、うまく説明できないが、密に会ったり深い会話を交わさずとも、彼が私にとっての絶対的な理解者であるという確信があった。

それは、10代の頃の幼さを共有しているという安心感なのか、あるいは、単に本質的な性格の相性だったのか。

理由はよく分からないが、私たちの関係は、俗に言う「友達以上、恋人未満」というものに変化していた。


「里奈、サークルの10周年パーティーいく?」

いつものLINEチャットの合間に廉にそう問われ、そういえばそんなメッセージがFacebookに届いていたのを思い出した。

「別に、行くつもりはなかったけど」

大学の4年間所属していたとはいえ、私はリーダー格だった廉とは違い、出席頻度の低い幽霊部員だった。

今でも連絡を取っているメンバーは廉と未祐だけだ。

シンガポール在住の廉は当然不参加だろうし、未祐はこの類の誘いに興味を示す女ではない。よって、私がこのイベントにわざわざ出席する理由はなかった。

「なんだよ、相変わらず冷めてんな。俺、ちょうどこの時に帰国の日程組めたからさ、せっかくだから里奈も来いよ」

「でも私、廉みたいに他に仲良い人もいないし...」

「じゃあ、一緒に行こうぜ」

廉の結婚式からは、もう半年近くの時間が経過していた。

その間はもちろんLINEのやり取りだけで、会うことはもちろん、電話で話すことすらしていない。

むしろこの適度な距離感こそが私たちの関係を変化させ、必要以上に警戒心を緩めていたのだ。

「そっか、わかった」

けれど私は、廉の誘いを軽い気持ちで承諾してしまった。

冷静に考えれば、今この状態で二人が再会するのは、危険過ぎると分かっていたはずなのに。

この記事へのコメント

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No Name
回が進むごとに朝からドキドキ
甘酸っぱい気持ちになってしまいます
この共犯者意識、既婚者の友だち以上恋人未満の甘い気持ちわかるな
外からみたら完全に不倫なんだけど、本人たちのなかではプラトニックな限り不倫じゃない
とはいえ今日一線を超えちゃうのかな?
超えたあと2人の関係がどう変わるのか、楽しみです
2018/08/14 05:1999+返信4件
No Name
結婚の経験はない私でも文章のテンポが良く、
LINEのやり取りや、密に連絡を取っていたゆえに直接会うと妙に気まずいドギマギ感は想像でき、
どきどきしてしまいました。。

甘酸っぱい青春のようで罪深い禁断の話ですが現実にありそうな話で怖いです。
里奈の立場にも奪われる妻側の立場にもなりたくないです。

東カレの世界をあくまで客観的に、毎日楽しく読んでいますが
2年の習慣が積み重なると色々とすり込まれ
、結婚願望が薄れてきている26歳女です。笑
2018/08/14 05:3399+返信4件
No Name
サブタイトルで「嫉妬に狂った人妻」てあるけど、美月じゃなくて里奈のことだったのね。。
これから大変だなあ周り巻き込んで不幸にして。
子供いないだけまだマシだったのかなあ…
2018/08/14 06:1599+返信3件
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