恋と友情のあいだで 〜里奈 Ver.〜 Vol.7

エリート商社マンの妻の座を勝ち取った“Bランク女”の変貌。31歳の花嫁が犯した唯一のミス

久しぶりの再会以来、私たちはまた以前のように連絡を取り合うようになっていた。

だが、内容はとりとめのない事ばかりだ。

「今日は暑い」
「残業疲れた」
「接待中」

など、数日毎に気まぐれに届く廉のLINEには、時々シンガポールの美しい夜景の写真が添付されている。

一方の私は、同じく一言二言のシンプルな返信をし、夜景のお返しに自宅の熱帯魚の写真を送ったりしていた。

“古い友人”としての、一見は無意味で無害な連絡のやりとりがジワジワと意味を帯び始めていることに、お互いに気づかないフリをして。



そして、廉の結婚式当日。

私は自室の巨大な姿見と何度も向き合っていた。

ドレスに靴に一連パールのネックレス。これらのアイテムを新調するために、一体いくら使っただろうか。

金額はよく覚えていないが、単に同級生の結婚式に出席するためにしては、明らかに過剰な出費だ。

―結婚生活、幸せなのか?―

しかし、あの廉の言葉を跳ね返すためには、これっぽっちの散財ではまだ足りない気がした。

先日表参道のCHANELで見つけた変わり種のマトラッセも躊躇わずに購入しておくべきだったと、一人舌打ちしたい気分になる。

社会人時代の嫌味な廉とは違う、遠慮がちな態度、同情の滲んだ口調。そして、私をいたわるように不安気に揺れていた瞳。

あれが嫌味ならば、きっと何てこともなかった。

だが、廉にあんな風に真剣に心配されたことにより、私はこれまで辛うじて保っていたプライドに不覚にも大きなヒビが入ってしまったのだ。

それを隠すために、私は久しぶりに直哉から贈られた1.6カラットの婚約指輪を薬指にはめた。

年上の女の変貌


『グランドハイアット東京』のチャペルに、私は大学時代のサークル仲間たちと参列した。

「おっ、花嫁登場。あれで31歳なら、思ったより綺麗じゃん」


豪勢なパイプオルガンのBGMと共にバージンロードに現れた花嫁を見て、長年の友人である未祐が私に耳打ちする。

たしかに新婦の美月という女は、偶然見かけた頃よりも随分と洗練されていた。

ブライダルエステに精を出したのか、あるいは商社マンの“駐妻”として、女としての価値自体が上がり、それが外見に滲み出ているのか。

いずれにせよ、以前のようなB級感はかなり薄れている。

―彼女のことは、ちゃんと幸せにしてやりたいと思ってるよ。...これまでは、色々と嫌な思いもさせてきたからさ―

あの日の廉の、恥ずかしそうにニヤけた顔が思わず頭を過ぎった。

そんな彼が与える結婚生活や愛情が、年上の花嫁にあれほどの変化をもらしたのかと思うと、私の不快感はますます募っていく。

散々女を取っ替え引っ替えするような商社マン生活を送ってきたにも関わらず、結婚の意思を固めた男の清々しいほどの潔さと言ったら、天晴れだ。

視線に気づいたのは、そんな風にシラけた気持ちで挙式を眺めている時だった。

―...え?

遠くから新婦...廉の妻となった女が、じっと私を見つめていた。

この記事へのコメント

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No Name
出たよ、「格下の女」呼ばわり。
何故東カレに出てくる女ってこうも揃いに揃ってマウンティングしたがるの⁉︎⁉︎
「自分の方が上」と思ってるの、あんただけだよ。
周りから見りゃ意外と大したことない。
そういうの外見や態度に出ますからね。
「勘違い女」のレッテル貼られて終わり。
自分だって側から見れば十分幸せなんだから、他人の粗探しなんてしないで純粋に祝ってやれや。
結婚式に大金注ぎ込めるだけの余裕ある
のに、心は貧しいんですね。
2018/08/07 05:3799+返信36件
No Name
結婚式で花嫁に睨まれるとか怖い。みんなおかしく思うよー。
美月も余裕無いだろうけど…。
他所の女と自分の旦那の何気ないLINEには腹が立つわ
2018/08/07 05:3399+返信3件
No Name
美月ミスったねー。そりゃあ逆に火ついちゃうよ。でも絶対、廉と別れなさそう。
2018/08/07 05:3199+返信2件
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