恋と友情のあいだで~廉 Ver.~ Vol.5

「まさか、浮気…?」金曜夜の西麻布。新婚の商社マンが目撃した、ある男女の密会現場

見てしまった、裏の顔


久しぶりに本社で仕事をした、金曜の夜。

日本にいることを聞きつけた未だ独身の同期に半ば連行される形で、僕は西麻布へと繰り出した。

「悔しいけど、廉がいると盛り上がるんだよなぁ」などとおだてられたら断りきれず、“顔採用”などと揶揄されるほど美人揃いで有名な、某IT企業の女性陣との食事会に参加するためだ。

雰囲気のいい隠れ家バーやビストロが複数入るビルの前で、僕は同期たちに続いてタクシーを降りた。

ふと、停車したタクシーの前方に視線が向いたのは、真新しいポルシェが殊更に目立っていたからである。

−そう言えば昔、ポルシェのカブリオレに乗る里奈と二階堂を目撃したことがあったっけ。

思いがけずほろ苦い記憶が蘇り、僕の胸をセンチメンタルに震わせた、その時だ。

ポルシェの運転席側ドアが開き、すらりと長身の男が車を降りた。男は早足で車の前方を通り、助手席側のドアへと手をかける。そのスマートな身のこなしと端正な横顔に、僕は息を飲んだ。

二階堂直哉。

まさかこんな所で会うとは。タイミングの良さ(悪さ、かもしれないが)に苦笑いするも、ここは西麻布のど真ん中。二階堂のような男に遭遇しても、そう不思議ではないのである。

しかしながら問題は、その後だった。


彼のエスコートで助手席を降りる女は彼の妻、つまり里奈でなくてはならない。

ところが僕の目の前に現れた女はというと、見るからに凡人とは違うスタイルを惜しげもなく晒し、タイトなドレスで着飾ったモデル風美女だったのだ。

「廉、どうした。行くぞ!」

同期の呼ぶ声がするが、僕は縛り付けられたようにその場を動くことができない。

−…どういうことだよ?

急速に高鳴る鼓動で、息が苦しい。

僕の脳裏に、かつて結婚式で見た、幸福の絶頂で微笑む里奈の顔が思い出された。

そうだ。僕はあの笑顔を見たからこそ、二階堂の隣に佇む彼女が幸せそうだったからこそ、心からの祝福を贈ったのだ。それなのに−。

二階堂はまるでこちらに気づく様子もなく、美女の耳元で何やら囁いている。

おそらく、自分は駐車してくるから先に店で待つように、などと伝えているのだろう。

目の前で繰り広げられる光景は、僕の胸を抉るように刺した。

その痛みはまるで、僕自身が侮辱されているかのようだった。


▶NEXT:7月31日 火曜更新予定
里奈と二階堂の結婚生活は破滅寸前。そして里奈と廉の関係が、ついに動き出す?

この記事へのコメント

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No Name
いいですか、あなたには関係ないのですよ。そして、あなたの奥さんにはさらにさらに関係ないのです。あなたが不安にさせてはいけない。あなたの務めは自分の奥さんを安心させることです。
お節介はやめなさい❗
2018/07/25 05:1599+返信12件
No Name
なんつーか、自分の気持ちに素直じゃないと、結局こういうことになってしまうわけだね。
2018/07/25 05:2499+返信2件
No Name
自分が遊ぶのは気にならないのに、自分が遊ばれたり、大切に思ってる人(親しい女友達や女兄弟)が遊ばれたりするとムカついたりしますよね。
2018/07/25 05:1299+返信4件
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