恋と友情のあいだで~廉 Ver.~ Vol.4

「君だけは、抱けなかった」。女慣れした商社マンが、たった一人の女に寄せる純情な想い

覚悟を決めてからの、僕の行動は早かった。

さっそく銀座『ロオジエ』を最短で取れる日に予約し、婚約指輪を探す。

こんな小さな石がどうして?という疑問にたびたび首を傾げながらも奮発し、『ハリー・ウィンストン』でダイヤモンドリングを購入した。ダイヤの大きさは、里奈がつけていたものと比べてかなり小さめではあったが。


「美月。僕と結婚してくれる?」

ドラマや映画で幾度も耳にしてきたセリフでも、いざ自分で口にしたらほんの少し唇が震えた。

一瞬の沈黙に緊張が走ったが、目の前で驚き、そしてみるみる涙目になる美月の表情が、僕の心をじんわりと愛で満たしていく。

「もちろん。ありがとう、廉」

彼女はそう言って、細い指でそっと涙を拭う。

その仕草も泣き笑いの顔も愛おしくて、僕は思わず彼女の小さな手を取り、ぎゅっと握りしめた。


そうして僕と美月は、結婚と駐在に向けて慌てて準備を開始した。

まずは千葉にある美月の実家へ挨拶に行き、結婚の承諾を得る。カナダにいる僕の両親にも連絡をして、両家顔合わせをするべく一時帰国してくれるよう頼んだ。

放任主義の両親からは特段反対されることもなかったが、母親に美月のことを話したときに「廉が年上を選ぶとは、意外ねぇ」などと言われたのは心外だった。

僕としてはむしろ、当然の選択だったのに。

結婚式は落ち着いてからきちんとしようという話になったが、様々な手続きの関係上、入籍は早めに済ませておく必要がある。

お互いに仕事をしながらあれこれ調整するのは想像以上に大変で、僕たちはマリッジブルーになる暇もないほどバタバタと日々を過ごしていた。

それゆえ結局、気合たっぷりで同期を招集した里奈の送別会も、僕自身はほんの少し顔を出す程度にしか参加できなかった。

まあでも、僕の存在の有無など、彼女は気にもしていないだろう。

疎遠になっていたとはいえ懐かしい同期たちに囲まれた里奈はとても楽しそうに笑っていたし、僕らの盛大なるはなむけに、満足してくれていたはずだ。


「廉、私…今が人生でいちばん幸せだわ」

この頃、食事を共にしながら、キスをしながら、ベッドの上で抱き合いながら、美月は繰り返しそんなことを言った。

その度に僕は呆れたように笑って、彼女をぎゅっと抱きしめる。

「何言ってんの。僕が、これからもっと幸せにするよ」

そう、僕は間違いなく美月を愛していた。

彼女に寄り添って人生を歩み、一生をかけて守り抜くと覚悟を決めていた。

…しかしどうして人の心というものは、無情にも移ろいゆく運命にあるのだろう?


▶NEXT:7月24日 火曜更新予定
セレブ妻となったはずの里奈が直面した、夫との愛情格差…

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

この記事へのコメント

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No Name
周りが迷惑するから初めからくっつけよ…
2018/07/18 05:1599+返信9件
No Name
これってさぁ、抱けなかった女に対する男性の執着っていう男性特有の性質上の問題なだけなんじゃない?
2018/07/18 06:1299+返信5件
No Name
そっか、自分の事で忙しかったのか。美月には良かったね、と思ってたんだけど、なんだこの不吉なヒキは?
2018/07/18 05:2299+
もっと見る ( 97 件 )

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