SPECIAL TALK Vol.45

~日本人を世界で一番ワインの味がわかる国民にしたい~

14万株のぶどうを捨てて一からやり直す覚悟で臨む

金丸:しかし、ワインづくりと言っても何もわからないですよね? 何からスタートしたらいいのか見当もつきません。人脈だってないに等しい。

辻本:そこはありがたいことに、「カプコンの創業者が100億円をつぎ込んでワイナリーをやる」というのが、大きなニュースになりました。カプコンはアメリカの会社だと勘違いしている人もいるぐらい有名なので。

金丸:どのぐらい話題になったんですか?

辻本:ニューヨークタイムズやワシントンポストなど、100紙近くに掲載されました。

金丸:それはすごい。

辻本:それで地元の方の協力もあって、1999年にはボルドー品種のぶどうの苗を14万株植えました。初めてワインができたのが、2001年。それはそれで悪くない出来でしたが、そのとき出会った栽培家のデイヴィッド・アブリューに断言されたのです。名だたるカルトワインのぶどう栽培を手がけていた彼が、うちの畑を見て、「ここでなら、もっといいものができる」と。

金丸:それでどうしたのですか?

辻本:「じゃあやってみてくれ」と言いました。すると、彼が条件を出してきた。今植えてある14万株を全部引き抜いて、畑を作り直せと。

金丸:ええっ、14万株全部ですか!? その条件を辻本さんは飲まれた?

辻本:はい。ワインもゲームと一緒で、生きるうえで絶対に必要なものではありません。だからトップをつくることが重要なんです。圧倒的なクオリティでなければ見向きもされない。中途半端なものをいくら生み出してもしょうがないんです。

金丸:とはいえ14万株ですから、決断するまでには相当時間がかかったのではないですか?

辻本:いや、即断即決です。ゲームだって何十億円とつぎ込んでも、途中で開発を止めることはありました。

金丸:この程度では動じないと。

辻本:畑はただ木を抜くだけでなく、根を張るときに邪魔にならないよう、土を2メートルほど掘り起こして、小さな石ころまで徹底的に取り除きました。それから、うちの畑は標高が一番低いところで250メートル、高いところで750メートルあります。それだけ高低差があるので、区画ごとに最適なぶどうの種を選んで、植え付けを行いました。

ワインを勉強するために1万本を購入し、テイスティング

金丸:そもそも辻本さん自身は、ワインをつくる以前からワインがお好きでいらしたのですか?

辻本:それほど、ですね。だから、デイヴィッドに「トップレベルのワインを知らない人がワインをつくってはだめだから、勉強しておいて」と言われました。金丸さんだったら、どんなふうに勉強しますか?

金丸:そうですね、〝飲みまくる〞でしょうか。実は以前、5大シャトーの飲み比べをしていまして。ある程度ベンチマークして、他のワインと飲み比べながら自分の好きなものを探すというように。次第に自分の好みのワインがわかるようになったんですが、途中で疲れてしまって(笑)。

辻本:そういうやり方をしたら、だめなんですよ(笑)。味を見極めたいなら、ブランドのことは頭から追い出さないと。

金丸:なるほど。

辻本:私はまず、1万円以上のワインを1万本買いました。

金丸:サラッとおっしゃいましたが、すごい額ですよね(笑)。

辻本:一番高いもので150万円。そして5人くらいを招いて、ボトルを見せずにグラスに注ぎ、飲み比べてもらいました。これなら値段やブランドに左右されません。面白いことに、一番減っているワインは、だいたいみんな同じなんです。

金丸:それが一番美味しいんですね。

辻本:そんな実験を4年くらい続けましたね。ボトルが4,000本くらい空いた頃、私にも美味しいワインがどんなものかがわかるようになりました。

金丸:4年で4,000本ですか。

辻本:まだ6,000本くらい残ってます。減らしたいけど、みんな「ケンゾー エステイト」ばかり飲むので、全然減りません(笑)。

金丸:ぜひ、そのワインを分けてもらいたいです(笑)。最初にリリースされたのは、どのワインでしょう?

辻本:「紫」と「藍」、そして「紫鈴」です。2008年に東京の帝国ホテルでリリースパーティーを開催したときは、みなさん、味に驚いていらっしゃいました。

金丸:私も最初に飲んだときの、あの衝撃は忘れません。以来、大ファンです。ワインの名前も印象的ですよね。日本的な名前ですが、どのようにお決めになったんですか?

辻本:実は一番悩んだのが、ネーミングでして、一番長いもので5年間悩みました。

金丸:それだけ思いがこもっているんですね。

辻本:たとえば、メルロを主体にした「紫」。これは、聖徳太子が定めた「冠位十二階」で最高位を表す色として気品を表しており、対して、カベルネ・ソーヴィニヨンを主体にした「藍」は、江戸時代から愛されてきた藍染めを象徴し、奥深さを意味しています。そういう違いを意識しながらブレンドも変えているのです。

金丸:名前の由来を初めて伺いました。私のワインセラーに「紫」と「藍」は欠かせません。由来が聞けて感慨深いです。

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