朝子と亜沙子 Vol.10

男の昇進と同時に、一方的に捨てられた“都合のいいオンナ”。恋愛よりキャリアを優先してきた女の本音

ここはとある証券会社の本店。

憧れ続けた場所についに異動となった、セールスウーマン・朝子。

そこでは8年前から目標としていた同期の美女・亜沙子が別人のように変わり、女王の座に君臨していた。

数字と恋をかけた2人のアサコの闘いの火蓋が、今切られるー。


念願の本店に異動になった中川朝子だが、同期・今井亜沙子は、数字の出来ない先輩に土下座をさせた上に、後輩を追い込んで逃亡させるという傍若無人な女だった。

パワハラで飛ばされた寺島に変わり、新たに着任した課長・島村は、その仕事への情熱で朝子達課員を引っ張って行くが、亜沙子は一人そのやり方に反発する。

その頃、朝子は、亜沙子に屈することなくコツコツと地道な努力を続けていた。


―ついにこの瞬間が訪れた…!

朝子は、興奮しすぎて上手く息が出来ない。だが確かに今日と言う日は、朝子にとって特別だ。それは、営業社員人生始まって以来の快挙を成し遂げた日、と言ってもいいくらいである。

「中川さん、よくやりましたね。」

そう言って島村は、朝子に手を差し出した。朝子は何も言えずに、ただその手を握り返す。

「震えてるじゃないですか?!」

いつもは厳しい表情の島村が、嬉しそうに笑っている。

―新規顧客から25億円の債券約定…!

朝子はこれまでの大変だった日々を思い出し、ぐっと込み上げてくるものを堪えるのに必死だった。



あの仕組債の一件によって、本店内での島村の立場が悪くなったという事は、誰の目から見ても明らかだった。

ある日の夜、隣の二課の課長である佐々木が、島村の席に来て偉そうな態度で話し始めた。

「島村さん、今月の予算は本当に大丈夫ですよね?」

それは、島村課長に言うというよりも、一課の課員達に敢えて聞かせるために言っているようである。

「ええ。大丈夫です。」

島村は淡々と答えた。

佐々木は、”簡単に大丈夫なんて言うな”とでも言いたげに、大袈裟にため息をついて見せる。

「わかってると思いますけど、またこのあいだみたいな大風呂敷広げて、直前にみんなに頭下げてお願いするとかやめて下さいよ。あれ、本当に迷惑ですから。」

佐々木は、自分達のやり取りをじっと見ている朝子の視線に気付いたようで、最後の言葉は朝子の方を見ながら言い放った。

―他の課の課長からあんな嫌味を言われなきゃならないなんて…本当に悔しい。

事実、佐々木が見ている営業二課には紀之がいる。自ら誰よりも数字をやり、後輩も的確に指導する紀之のおかげであの課は回っているのだと、本店内では噂されていた。

課長としての能力は明らかに島村の方が上だと朝子は思うのだが、結局は一番数字が出来ている人間が偉い。

「数字は人格」ここはそういう職場なのだ。

島村が着任してからというもの、“営業一課の本当の実力を証明したい!”と、朝子は強く思うようになっていた。

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