2018.05.17
ふぞろいな駐妻たち Vol.1バンコク駐妻界への招待状が呼び覚ます、8年前の記憶
“ようこそバンコクへ。里香子さんの素晴らしい日々が始まりますように。一同、貴女を歓迎いたします”
署名には、夫の会社のバンコク婦人会、とある。
―どうして昨日越してきたこと知ってるの…?
里香子は一瞬怪訝に思ったが、すぐに我に返った。当然会社は家族の渡航日を知っているし、調べることは簡単なはずだ、と気がついたのだ。
でも里香子がとっさに感じたのは、どこからか見られているような、ひやりとした居心地の悪さだった。
―駐妻。
そのキーワードに、8年前、ロンドン留学中の棘のような記憶がよみがえってきた。あれは、20歳の頃のことだ。
「里香子、私、決めたわ!絶対駐在員の奥さんになる!」
大学寮のラウンジに戻るやいなや、今や親友といっても差し支えない雪乃が大袈裟に宣言する。ワンピースの裾と栗色のロングヘアをひるがえしながら振り返った顔が紅潮していた。
「え!?昨日のパーティーのどこを見てそう思ったの?あの奥様たち、いくらクリスマス会だからって、あり得ないくらい着飾って、愛想よくして。すごく大変そうだったよ」
里香子は、ワイルドストロベリーのティーカップを温めながらお茶をいれつつ、目を丸くする。ラウンジに入ってきたケイも、同意とばかりに頷いてソファに座った。
ロンドン大学に1年間の交換留学で来ている日本人は大勢いるが、3人はそれぞれ東京の大学から来ていて共通の話題も多く、すぐに意気投合した。
ロンドンに来て9か月、昨夜も一緒にパーティーに出かけたばかりだ。
「そうよ、しかもみんな夫と子供の話ばっかり。珍しく自分の話をすると思えばつまらない持ちよりティーパーティがどうだとかさ」
ショートパンツからのぞく長い生足を組み、うんざりした顔で、ケイは続ける。
「私の右にいた奥さん、左にいた奥さんに先週のお茶会テーブルコーデのダメ出ししてたよ。『○○商社の妻としてふさわしい品格を』とかって。同じ会社の上司と部下の妻、もはやパワハラよ」
白い肌に黒髪のショートボブ。普段は化粧気のないケイは、3人の中で一番シニカルな性格である。もっとも、一番律儀に奥様方の話につきあっていたのは彼女だったが。
「まあ雪乃、見た目は清楚で可愛いから、本気で駐妻を目指すなら楽勝じゃない?なんなら昨日名刺交換した人に頼んで、独身後輩の方とお食事会頼んだら?ロンドン出張、きっと単身者も来るよね」
里香子は、湯気の立ちのぼるアールグレイが注がれたカップを二人に渡しながらソファに座る。
すると雪乃が、少々不貞腐れた様子で里香子を見た。
「見た目は、って何よ。それに、見てたわよ、里香子。結局一番名刺いただいてたのは里香子だったもん」
「里香子は見た目はクールビューティでとっつきにくいけど、頭良くて気取ってないから、話すとすごく面白いのよ。結局頭の良い男は頭の良い女が好きだからね」
ケイがこともなげに言うのを、里香子は澄まし顔でうなずき、雪乃も笑う。
昨夜は、里香子が早稲田から交換留学に来ている縁で呼ばれた、「英国稲門会」なる早稲田大学同窓会のクリスマスパーティに出かけたのだ。
それがトラブルを招くとは思わずに。とても無防備に。
違う国、違う会社の駐妻ライフ気になります。
アジア駐在は優雅そうでうらやましいです。
欧州の某国でしたが、物価が高くて贅沢とは程遠かった。
住んでいた家が古く、お風呂場の隙間からキノコ生えるし
友人の旦那は若くして部長。駐妻時に「偉いのは旦那でアンタじゃない」と言われたとか。この世界にもおつぼねーずは存在するらしい(笑)
仕事で上を目指すのはつらい。やっぱり自分より仕事ができる人と結婚して家計は旦那さんにお任せ。
でも日本で普通の専業主婦になるのはプライドもあるしこれまでのキャリアももったいない。
駐妻になったら、その国で語学を学んだり、コミュニティでの活動や趣味などやりたい。
なので旦那さんの駐在で会社辞める、
仕事は辞めるけど、現地でもわたしら...続きを見るしく頑張ります!
みたいなのが、現代の寿退社なのかなと感じました。
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