2018.04.21
SPECIAL TALK Vol.43技術者たちは自身の技術の真価をわかっていない
金丸:そんな逆境で、よくやり切ることができましたね。
鶴本:やはり品質そのものが素晴らしかったからこそ、うまくブランド化につなげられたんだと思います。サスギャラリーの代表作に「真空チタンカップ」というのがありまして、これは1個ずつ表面加工が異なり独特の光を放つ彫刻のような器です。チタンの二重構造なので、手に持っても熱くも冷たくもないし、飲み物の温度を長時間キープする機能にも優れています。まさに工業と工芸の間のようなプロダクトなんですが、世界的な展示会にターゲットを絞って出展したところ、デザイン性と機能性の高さが認められて、2010年に日本で開催されたAPECでは、各国首脳への贈り物に選んでいただきました。
金丸:それは素晴らしいですね。私はいつも思うんですが、日本人はブランディングが下手ですよね。良い技術を持っているのに活かせていない会社が、日本全国にごまんとある。彼らは自分たちがグローバルに通用することを知らないし、価格交渉もできない。価格決定権が大切なこともわかっていない。だから材料費に、自分たちが最低限欲しい利益ぐらいしか上乗せしないんです。本当はそれ以上の価値があるのに。
鶴本:そうなんです。国内で生産してブランド化するのであれば、価格帯は高くならざるを得ません。でも日本には、そんなラグジュアリーブランドがない。だからこそ、私はそこに挑戦したい、人生をかけようと思ったんです。
金丸:ナガエプリュスでは、最終的に何を目指していらっしゃるのでしょうか?
鶴本:ナガエプリュスを、メイド・イン・ジャパンの世界的なプラットフォームブランドにしていきたいです。モデルにしているのは、フランスの高級ブランド「エルメス」です。
金丸:というと?
鶴本:エルメスは、フランスの素晴らしい職人たちの受け皿になっているんです。高い技術を持つ複数の工場と提携し、それぞれの工場で作られた商品をエルメスのコーヒーカップ、エルメスのスカーフ、エルメスのアクセサリーとして販売しています。これと同じことが、ナガエプリュスでできないかと。将来はデザイン性の高い上質な生活用品全般が「ナガエプリュス」、つまりメイド・イン・ジャパンでそろえられるようにしたいです。
金丸:まさに今の日本のものづくりに必要な考え方ですね。
鶴本:地域の産業をブランド化すれば、あのブランドを作っている工場なんだと新しい職人さんたちが集まってきます。日本のものづくりを元気にするために、そういう良い循環や仕事が絶えない環境を作り上げていきたいです。
金丸:燕三条や高岡以外に、密接に関わっている地域はあるんですか?
鶴本:日本各地にありますよ。たとえば鳥取市のアルミ表面加工工場、革製品に金属の箔を貼る技術を持つ姫路の皮革工場、高い縫製技術を持つ東かがわ市の手袋工場、鯖江の眼鏡工場など、全国に提携工場を広げているところです。
金丸:鶴本さんの手腕で、こうした各地の工業製品が世界的なブランドに育っていくのを想像すると、非常に楽しみです。
鶴本:期待に応えられるように頑張ります。私はこの仕事で一番大事なことは、職人さんとの信頼関係だと思っています。最初は職人さんとの間に壁がある感じなんですが、私が「人生のミッションとして、ブランド化に取り組みたい」という強い思いを伝えると、「しょうがねえなあ」と言いながら、ちょっと心のドアが開く。そうすると「えっ、そんなことまでやってくださるの」っていうぐらいに、一生懸命に取り組んでくださるんです。先ほどの真空チタンカップも、はじめは「変なものを作らされている」としか思ってもらえませんでした。
金丸:職人からすれば、今までやっていなかったことに挑戦することになりますからね。
鶴本:金属加工の世界は品質を均一にすることを最優先としていますから、1個ずつ表面加工が異なるチタンカップは「常識から外れている。こんなもの絶対売れない」と言われました。それでも「とにかく100個作ってください」とお願いし、全部売り切ろうと覚悟したんです。新宿の伊勢丹百貨店の売り場に立ち、自分の言葉でカップの良さを伝えた結果、3日間で完売。それを見ていた職人さんたちも「あいつはちゃんと商品を、世の中に出してくれる」と認めてくれるようになりました。
金丸:自分たちの技術がもっと高く売れることを理解すれば、日本のものづくりも変わりますね。
鶴本:それに、これまでは海外に売り込みにいっていましたが、反対に日本に来てもらって、日本の空気感のなかでプロダクトの良さを感じてもらうことが重要なのでは、と考えるようになりました。それを実践するため、今年の夏、東京の外苑前にナガエプリュスの直営店をオープンする予定です。
金丸:日本はヨーロッパから見て、ファーイースト。ファーイーストに行くには時間もお金もかかるけど、逆にそれが希少価値になる。
鶴本:おっしゃるとおりです。日本にきちんと根を張って、その価値を丁寧に伝えていきたいです。
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