サイコパスな夫 Vol.1

サイコパスな夫:東大卒・外銀勤め・身長185cmのイケメン。完璧な男の正体は“サイコパス”だった?

一番奥の席に座っている、美しく顔の整った男。彼は獲物を狙う頂点捕食者のような鋭い目つきで、私をじっと凝視した。

―怖い……。

ほんの0.5秒、固まった。

今思い返せば、彼への第一印象は“恐怖”だったのである。でも次の瞬間、私の記憶はいとも簡単に改ざんされてしまった。

―なんてさわやかでかっこいい人なんだろう。
―完璧だ。

そして彼はおもむろに立ち上がると、きれいに整えられた白い歯を輝かせ、お手本のような完璧な笑顔で「どうぞ」と自分の隣に私をエスコートした。


麻也子の彼氏である保坂という男は、ゴルフ焼けなのか浅黒い肌をしていて、見るからに悪そうなオーラを放つイメージ通りの外銀男であった。

それとは対照的に、彼は透き通るような真っ白い肌をし、笑顔がさわやかな好青年といった印象である。身長は180cmを優に超えていて、何かスポーツをしていたであろう引き締まった身体が、高そうなスーツを完璧に着こなしていた。

そしてもう1度ニコっと微笑むと、「椎名歩です。よろしく」と右手を差し出してきた。

―あぁ、なんて素敵な人なんだろう……。

彼の長く綺麗な指に触れた瞬間、不覚にも恋に落ちそうになるのを、ぐっと堪えたのを覚えている。

「こちらは希ちゃん。私の友だちで一番可愛い子よ」

麻也子が得意げに紹介すると、彼は握手をしたまま、食い入るように私の顔を見てこう言った。

「こんなに可愛い子……見たことないよ」

褒められるのには慣れているはずだったが、珍しく顔が熱くなったのは、私も彼がタイプだったからだろう。

1秒、2秒、3秒……

じっと目を見たまま、なかなか手を解かないその男に少し戸惑いを感じたものの「ごめん、見惚れちゃって」という彼の笑顔にすぐ惹きこまれる。

「麻也子ちゃん。こんな素敵な女性を紹介してくれて、どうもありがとう」

そう言って彼が穏やかに微笑むと、麻也子は誇らしげな顔をした。

外銀の男といえば、“プライドが高く、上から目線で鼻に付く”というイメージを持っていたが、彼はその完璧なスペックをひけらかすことなく腰が低く、異様にさわやかな男だった。

「本当に可愛すぎる」
「一目惚れしちゃった」
「こんなタイプな子に、出会ったことないよ」

彼は料理に手をつけることなく、口説くのに夢中になっていた。私が謙遜する暇もないくらい、熱烈に。

そしてこのあと30分もしないうちに、私の人生を大きく揺るがす、衝撃の一言が待ち受けていたのだった。

この記事へのコメント

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No Name
いきなり目の前で彼女に別れようと一方的にメールを送る時点で、この男おかしいなって思わないのかな
2018/03/02 05:5999+返信17件
No Name
伊勢谷友介が脳内再生された
2018/03/02 05:1699+返信20件
No Name
この人僕に似てるわ。
似てない所は、東大じゃなくて、外資証券会社勤めじゃなくて、185cmじゃなくてイケメンじゃないことだけだ!
2018/03/02 05:5699+返信9件
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