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  • バツイチ男の恋愛事情 Vol.3

    バツイチ男の恋愛事情:「今夜は帰りたくない」。耳元で囁いてきた女との、一番長い夜

    その日の藤本には、朝から重要なアポが入っていた。

    去年から何度も打ち合わせを重ねていた案件が、ようやくまとまるという大事な商談だ。

    こんな大切な日は普段より少し早くベッドから出て、いつも以上に丁寧に身支度をするのが昔からの習慣だ。

    銀座のテーラーで仕立てたシャツに袖を通し、いくつも並ぶ腕時計の中から、今日はオーデマ・ピゲを選ぶ。

    一度、この時計を着けている時に大きな仕事を決めたことがある。それ以来、げん担ぎではないが、大事な日は自然とこの時計を手にすることが多い。

    鏡の前に立ち、最後に『Kunkun body』をワキに近づけていつものようにニオイをチェックすると、鏡に映る自分を見て、小さく頷く。




    少しの緊張とともに始まった商談は、思っていた以上に順調にまとまり、藤本はアークヒルズで少しばかり早いランチをとっていた。

    その時だった。

    “藤本さん、今夜空いてませんか?”

    アンから送られてきたLINEだ。このメッセージを見て、藤本はわずかに首を傾げた。

    —2週間前に会ったばかりだけどなぁ…。

    アンと知り合って約半年。特に決めたわけではないが、月に1度くらいのペースで食事を重ねている。

    それ以上でも、それ以下でもない。

    きっとそれくらいが互いにちょうど良いのだろう。なんとなく守られてきたペースだ。だから、前回の食事からこんなに早く連絡が来たことに、藤本は少しの違和感を覚えたのだ。

    大きな仕事を決めた今日は、早めに帰宅してマンションの最上階にあるプールで、思う存分泳ごうと思っていた。

    泳ぎの合間には目の前で煌々と輝く東京タワーを見て、達成感を噛み締めるのが、藤本にとって何よりのご褒美なのである。

    —どうするか…。

    迷ってみたものの、答えはもう出ていた。

    “じゃあお店予約しとくよ。西麻布でいいかな?”

    おそらく、急ぎの相談か何かがあるのだろう。泳ぐのは明日の朝にしようと思い、どの店に行こうかと考えを巡らせる。

    そうして、いくつかある候補の中から一番最近オープンした店を選んで予約した。

    こうして藤本は、アンとの長い夜を過ごすことになるのだった。

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