忘れられない恋:私の“魔性の女”の才能を見出した、大人の彼との忘れられない記憶




モデル事務所に所属したのは、いまから15年ほど前、私が女子大生の頃だ。

「舞衣子ちゃん、刈谷賢三って知ってるだろ?彼がさ、君をどうしても撮りたいんだって。絶対に引き受けてよ」

事務所の社長が「すごい話がある」と突然連絡を寄越したのは、大学を卒業してしばらく経った頃のことだった。

当時の私は、モデル業にはほとんど見切りをつけ、知人に紹介されたアパレル会社に勤務していたにも関わらず、だ。

一般人としてはそこそこ目立っていたものの、“プロ”としての野心はそこまでなく、私はいわば“売れないモデル”だった。

しかし結論から言うと、私は当時から名の知れていたカメラマンであった賢三のおかげで、芸能界で成功する方法の一つである“とてつもない強運”を手にし、一躍有名モデルの仲間入りを果たした。

だがそれは、賢三が私を撮ったジュエリーブランドの広告が好評を得たのはもちろんのこと、彼との熱愛報道によるものが大きかった。


「舞衣子は、ただ綺麗なだけじゃない。男を狂わせる、生まれつきの才能があるよ...」

鋭い目つきをした濃い顔に、ゴツいアクセサリーで身体の節々を飾った年上の男。

自分より一回りも年上の名声や権力を持つ男とどうにかなるなんて、すでに26歳だった私にとっては“イタイ”行為だと思っていた。

だが、芸能界で一目置かれる強面の彼が、大切な宝物を扱うかのように優しく私の頰を撫でるのは何とも言えない心地良さがあったし、賢三の圧倒的な才能と魅力には抗えなかった。

彼はフランスの大学で写真を学び、ある世界的な俳優に気に入られ、その写真が海外の雑誌に掲載されたのがきっかけで若くして有名になったそうだ。

カメラマンという職業にはそれほど詳しくなかったが、賢三が撮って現像した写真には1枚何百万という値がつくこともあると知ったときには、さすがに目を剥いた。

彼の造形美への執着と好色具合には薄々気づいていたが、しかし、世界中の美しい女を知る男が熱心に自分だけに賛美を送る快楽は、きっと経験者にしか分からない。

それに私は、単純に賢三を愛していた。

特別なことはしなくていい。私は、彼とただお酒を飲んたり、取り留めのない会話をするのが楽しかった。

「昔はさ、今みたいに夜遊びする場所も少なかったから、デートはドライブが主流だったんだよ」

そんなことを言って、夜中の首都高を何週もグルグルとポルシェで走る、ただそれだけの時間さえも愛しくて堪らなかった。

彼とは同年代の男の子と変わらないラフさで接することができたし、その一方で、一流の人間でしか決して知り得ない品やセンス、そして余裕が会話の節々に光っていた。大人の男の魅力、というのを本当の意味で知ったのは、彼が初めてだったのだ。

才能ある彼に認められ、同じ目線で議論を交わす。賢三によって私の仕事欲はかつてないほど刺激され、プロ意識もむくむくと育った。

そして何より、飯倉の海外風の造りの広々とした低層マンションの一室で、彼のお気に入りの大量の写真集に囲まれて抱き合うという女としての悦びまで覚えてしまったのだ。

この記事へのコメント

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No Name
え、いいですよ!東カレらしくて、さっくりおわってよかったです。
お店の話が少ないのは残念。
2018/02/18 22:1525
No Name
いや、高岡早紀の朗読は最高だったよ。艶めかしいったらもう。。
2018/02/18 22:5014返信1件
No Name
そして舞衣子は女版賢三となり、芽の出かけている男たちを出世させていくというループ構造ですね。
2018/02/19 05:2512
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