パーフェクト・カップル Vol.3

パーフェクト・カップル:「完璧に演じよう」と互いに約束し、世間を欺く“理想の夫婦”

誰もがインターネットやSNSで監視され、さらされてしまうこの時代。

特に有名人たちは、憧れの眼差しで注目される代わりに、些細な失敗でバッシングされ、その立場をほんの一瞬で失うこともある。

世間から「パーフェクトカップル」と呼ばれる隼人と怜子は、一挙一動が話題になり、「理想の夫婦」ランキングの常連として、幸せに暮らしていたが、結婚6年目に夫が女性と週刊誌に撮られてしまう。夫が何かを隠していることに気が付いた妻は、記者のインタビューに答えようと言うが…。

「世間の目」に囚われ、「理想の夫婦」を演じ続ける「偽りのパーフェクトカップル」の行く末とは?


「怜子、本当に週刊誌のインタビューに答えるつもりなのか?」

事務所の社長が帰った後、夫・隼人がつぶやくように言った。さっきは勢いでそう言ってしまったものの、私が答えることで本当に事態が好転するのか、たしかに自信があるわけではない。

女の子と口裏を合わせたい、なんて言い方も、意地悪だったかも。

少し頭を冷やす必要がある。私は衝動的になった自分を反省し、隼人に言った。

「ちょっと翔太の部屋、見てくる。その後また話そう。」

子どもの顔を見て落ち着きたい。

私の意図を理解したのか、彼は頷いて分かった、と笑顔を作った。その笑顔にまた胸がざわつく。それが何故なのか分からないまま、私は彼に背を向け子ども部屋に向かった。

音をたてずにドアを開け、静かにベッドに近づき覗き込むと、思わず微笑んでしまう。

今年4歳になった、一人息子の翔太。夫譲りの柔らかな髪を撫でながら、ベッドの横に座る。規則正しい寝息に癒されて、少しずつ興奮がおさまってくると、去り際の社長の言葉を思い出した。

「私は怜子に“理想の妻”という肩書を守り続けて欲しい、なんて思ってないからね。」

玄関まで見送った私に、隼人には聞こえない声で社長が言った。彼女の心配は有難かったけど、私はまた「大丈夫です」と答えてしまった。

「彼に責任を取らせなさい。あなたがかばう必要はない」と怒りが収まらない様子の社長に、「2人で話し合ったら、すぐ連絡します」と言って、その背中を押すようにして玄関のドアを閉めた。

社長も、そして私達を知る誰もが、実は私達が「恋をせず」結婚した「親友同士」であることを知らない。

キスできるか、で始まって、他に好きな人ができたら別れようって言ってた私達が“パーフェクトカップル”と呼ばれるようになるなんて。

街で「憧れのご夫婦です」と声をかけられたりすると、後ろめたい気持ちになることもあったし、私達の結婚はある種の「共犯関係」の様なものだと、今回のことで改めて思う。それでも。

―今の私たちには、この子がいるから。

寝返りさえも愛おしい我が子。翔太が生まれた時、とにかく“元気”で“自由”な名前にしたかった。

厳格な家庭に育ち、常に周りの評価に囚われてきた自分が嫌で、我が子には自由な人生を歩み、羽ばたいて欲しくて「翔太」という名前を選んだ。

私と似たような境遇で育った隼人も、俺たちって本当にどこまでも似てるんだな、と笑いながら賛成してくれた。

―この子のためにも、ちゃんと考えなきゃ。

のびをした小さな体に布団をかけ直し、リビングへ戻るため立ち上がった。

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