“ゆとり”のトリセツ Vol.1

“ゆとり”のトリセツ:高学歴・高収入・容姿端麗。誰もが羨む外コン美女の、地味すぎる生態

沈みゆく船


瑞希の上司、吉田はもうすぐ50代だろうか。

総合商社に10年ほど勤めた後、コンサル業界に転職し、競合他社から瑞希の勤める会社に移ってきた。

広い業界の人脈が買われ、今年か来年にはパートナー昇格もあり得るかと噂されている。


上司の話相手はほとんど先輩に任せ、瑞希はペロリとステーキを平らげた。

下げられる皿を名残惜しく見送ったが、気持ちを切り替えデザートのメニューを手に取る。

「そういえばこの前辞めた笠原、上野の大学の後輩だったよな?今何やってるの?」

「詳しくは知りませんけど...知り合いのベンチャー数社で色々やってるみたいですよ」

「なんだ、ふわっとしてんなぁ。俺思うんだけどさ、上野くらいの年の子って、腰据えてひとつのことに打ち込めないやつ多いよなあ。俺が20代んときはさぁ...」

再び始まった昔話に心の中でため息を吐きつつ、デザートメニューに意識を戻した。

―偉そうに言ってくれちゃって...。

“石の上にも3年”なんて、古い。

世界がこれだけ目まぐるしく変化している中で、3年も石の上に座っている方がおかしい。

大体20年以上も前の成功体験が、この現代に生きるんですか?

―でも、関係ないもんね。だってあなたは、残りの人生"安泰”だから。

瑞希たちが10年後成功しているかどうか分かる頃には、上司は悠々リタイア生活で、私たちがどうなっていようと責任ゼロだ。

ちゃんと勉強して一流大学に入って、大企業に就職して。

ちゃんとした人と結婚して、家庭を築いて。

ちゃんと定年まで勤め上げて、退職後の余生は年金でのんびり暮らして。

ちゃんと頑張っていれば幸せが約束されていた時代。

この“ちゃんと”が今の日本で、どれだけ通用するのだろうか。

今までみんなが必死になって目指してきた大企業の多くが、時代の変化について行けず、業績の曲がり角にぶち当たっている。

年金制度の限界は見えているし、平均寿命は100歳にまで伸びると言われている中、教育→仕事→余生という人生プランすら成り立たない。

瑞希は、今までの“当たり前”が静かに、しかし着実に崩壊していくのを肌で感じていた。

この記事へのコメント

Pencilコメントする
No Name
ゆとり世代かつ早めにキャリアや給料で自信が付いた女は自分のブレない価値観で生きてるから、人からの目を本当に気にしなくなる。
食べたい物を食べ、着たいものを着て、地味ーに遊ぶ。とても共感できる。
2018/01/29 07:0699+
No Name
私も餃子食べたい
2018/01/29 06:2296返信1件
No Name
ゆとりです。多々共感します。機械が簡単にできるような作業が仕事と認められた時代がうらやましい。
2018/01/29 07:2494返信3件
もっと見る ( 75 件 )

【“ゆとり”のトリセツ】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo