SPECIAL TALK Vol.40

~“人の移動”までも劇的に変化する未来がもうそこまで迫っている~

「今すぐやめろ」と言われたことが事業化のきっかけ

杉江:僕たちにとって、WHILLはスタート時点から「一人乗りの新しい移動体」、つまりパーソナルモビリティでした。だから翌年に完成したプロトタイプを医療・福祉器具の展覧会ではなく、東京モーターショーに出展しました。

金丸:反響はどうでしたか?

杉江:ありがたいことに、世界各地から大きな反響をいただきました。ただ、なにせ僕たちは趣味でプロダクトを作る集まりだったので、作っただけで満足してしまって。

金丸:それがなぜ、その後もWHILLを作り続け、起業するまでに至ったのですか?

杉江 プロトタイプのWHILLを見て、「今すぐやめろ」と言ってきた方がいたからです。

金丸:えっ、なぜそんなことを?

杉江:その方がおっしゃるには、WHILLのようなプロダクトは、これまでもたくさん生まれてきた。しかし、どれも商品化されないままフェイドアウトしていった。結局手に入らないのであれば、本当に必要としている人に夢を見させるようなことはしないでくれ、と。

金丸:なるほど。

杉江:僕たちの集まりには大手メーカーに所属している人も多かった。だから各メーカーが特許や知財だけ押さえて、眠らせているプロダクトが数多くあることを知っていました。でも現実には「夢だけ見させないでくれ」と言うくらいに、商品を欲している人がたくさんいる。ならば、僕たちでやろうじゃないかと立ち上がりました。

金丸:エンジニア魂に火がついたんですね。

杉江:正直、僕はそれまで、自分の人生をかけて打ち込むことなんて、そうそう見つからないと思っていました。でも今は、WHILLでモビリティの未来に変革をもたらすということが夢であり、人生の目標です。

金丸:杉江さんはシンプルな動機をもとにアクションを起こすことを徹底されています。それが突破力を生んでいるのだと思います。

プロトタイプから商品へ。起業する以外の道はなかった

金丸:いよいよ起業ですね。

杉江:はい、2012年に。WHILLを世に出すためには、起業以外の選択肢はありませんでしたし、資金を集めるためにも、設立当初からアメリカ進出を考えていました。

金丸:アメリカの市場規模は、日本より遥かに大きいですからね。事業は順調ですか?

杉江:まずまずです。最初のモデルである「WHILL Model A」は、2014年の発売から日米で1,000台以上売れています。昨年は、最新型の「Model C」を発売しました。このモデルは、車椅子を3つのパーツに分解でき車に載せて運べるので、家族みんなで遠出ができると好評です。しかも価格は45万円と、従来の電動車椅子の価格(20万〜40万円程度)に近づけることができました。

金丸:ユーザーにとっては嬉しいですね。

杉江:それから、WHILLは3G回線を利用した通信が可能です。移動をトラッキングすることで見守り機能を持たせたり、遠隔操作をしたりすることができます。

金丸:ハードとソフトの両面に強みがあるんですね。これからも進化し続けるのですか?

杉江:はい、進化させます。今は自律走行や隊列走行、自動停止に取り組んでいて、2017年度に羽田空港で、パナソニックと共同開発した「WHILL NEXT」というロボット電動車椅子を実際に走らせる実証実験を行っています。

金丸:公道ではなくて空港を?

杉江:実はそれが肝なんです。空港や駅のような移動のハブとなる場所で、WHILLがまともに使えないようだと意味がありませんから。

金丸:なるほど。

杉江:今後はWHILLというプロダクトだけでなく、サービスも併せて提供しなければならないと考えています。たとえば空港でWHILLのシェアリングサービスを導入できれば、そのメリットを受けられるのは、車椅子利用者だけではありません。空港には車椅子を後ろから押す添乗員の方がいます。海外の空港では、オペレーションコストに年間数百億円かかるところもあります。

金丸:結構なコストですね。たとえば「タクシー乗り場まで行きたい」と言うと、WHILLが自動で動くようになれば、その数百億円が浮くわけですね。

杉江:そうです。しかも、タクシー乗り場まで送り届けたあとは自動で戻ってくる。

金丸:素晴らしい。2年後の東京オリンピックまでに、ぜひ実現させてください。

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