悪妻 Vol.6

悪妻:「あの男の元へ行くのか?」紳士な夫になりきれず、漏れ出した妻への本音

東京には、いろいろな妻達がいる。

良き妻であり、賢い母でもある良妻賢母。

夫に愛される術を心得た、愛され妻。

そして、あまり公には語られることのない、悪妻ー。

これは、期せずして「悪妻」を娶ってしまった男の物語である。

女性の美に並々ならぬ執着を持つ藤田は、若く美しい妻・絵里子結婚するが、振り回される日々が続く。とうとう家出までした絵里子だが、突然帰宅する。


妻が語る、意外な家庭環境


「どこって…普通に実家よ、杉並の。」

絵里子に家を出ていた3日間に泊まっていた先を尋ねると、悪びれもせずそう答えた。

「え…?お父さんとお母さんのところかい?それじゃあ、一言そう言ってくれれば良かったじゃないか。」

非難めいた口調は絵里子が最も好まないものだ、と藤田は口を開いてから気がつくが、いつもの絵里子の威勢がない。

絵里子はワインを飲みながらうなだれて何も言い返さず、上の空な表情を見せた。

2人で暮らした時間は少ないかもしれないが、濃密な日々を過ごしてきた自分にとって、絵里子のちょっとした変化は手に取るように分かる。

梅原のところに行っていたのではと疑心暗鬼になっていたが、そうではないと分かった今、藤田は絵里子への愛情が再び溢れ出すのを感じた。

「絵里子ちゃん。何かあったの?」

そう尋ねると、絵里子は頬杖をつきながら大きくひとつため息をつく。

「私の実家ってね。お父さんが物凄く嫌なヤツなのよ。」

絵里子の父親…。

藤田は、出会って2度目に結婚を決めた後、形ばかりの挨拶に行った絵里子の実家のことを思い出す。

2人で日取りを決め、藤田は世間一般の夫がするように、妻の父親に頭を下げた。

藤田はいかに絵里子が素晴らしい女性かを熱弁し、自分が一生彼女を困らせないことを約束した。

「実家にいると、本当に息苦しいのよ。とにかく、あいつを中心に全てが決まる。細かいことでも気に入らないとすぐに怒鳴るし、お母さんはそんなあいつに一切口答えしない。私のことも、出来損ないの娘、っていう態度で接するんだから。」

あまり自分のことは話したがらない絵里子から、初めて聞く家庭の話だった。

絵里子の父親は藤田と似て痩せ型で、そう威圧感のあるタイプではなかったが、やや神経質な側面があるとも考えられる。

独善的な父親に評価されてこなければ、娘としては居心地の悪い家庭だったのかもしれない。

藤田は絵里子を抱きしめながら、自分はこの子をうんと甘えさせてやろうと誓った。

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