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  • ズルい男 Vol.2

    ズルい男:「私、彼氏がいるのに…。」35歳の女が、年下男性に不覚にも恋心を抱いてしまった理由


    六本木通りを歩きながら、私は生涯の伴侶になるかもしれない男の姿を、まじまじと見た。

    今日の圭吾は、ダークグレーのニットに白いパンツを合わせている。センタープレスが際立つ白パンツは全体のトーンから少し浮いていて、恐らくこれは夏物だろう。

    圭吾は、着るものにはあまり構わない性分だ。身長も高いしもう少しお洒落したらいいのに、とそれとなく言ったことはあるが、その言葉は届かなかったようだ。

    西麻布の交差点で信号を待つ圭吾の後ろ姿から思わず目を背けると、1台の赤いクルマが目についた。

    どこかで見たことがあると思ったら、ニューヨークに駐在しているときに会社の先輩が乗っていたのと同じクルマ、赤のシビックだった。

    ぱっと目を引く伸びやかなデザインが印象的で、その先輩も素敵な人だったから、よく覚えていたのだ。

    ―久しぶりに見たわ……。

    私は不意に、ニューヨークにいた頃の自由で刺激的な日々を思い出し、胸がツンとなった。

    「詩織、どうかした?知り合い?」

    クルマをじっと見つめていた私の顔を、圭吾は不思議そうな顔で覗き込んだ。

    「…ううん。何でもないの」

    「明日は、ゴルフで朝早いんだろう」

    そう言って、圭吾は私のためにタクシーをさっと止めてくれた。

    優しい恋人に、転職した商社での充実した仕事。今の東京での穏やかな生活に、何の不満もない。

    私は自分にそう言い聞かせながら、そのタクシーに乗った。



    翌日は上司の関根さんの車で、早朝から相模原に向かった。会社のゴルフコンペに参加するためだ。

    ゴルフはもう10年以上やっている趣味の一つだ。転職してからまだ日も浅いので、社内行事には積極的に顔を出すようにしている。会社では女性も転職組も少ないので、馴染むのに必死なのだ。

    久しぶりのコンペだったが、スコアは100を切り、私は気分よくホールを回り切った。

    しかし帰り際、困ったことが起きてしまった。

    行きに車に乗せてくれた関根さんが「妻の実家が近くなので寄って行きたい」と言い出し、帰りの足がなくなってしまったのだ。私が困っていると、同じチームの透君がすかさず助け船を出してくれた。

    「詩織さんのお家、都内ですよね?僕赤坂だから、送りますよ」

    透君は切れ長の目が印象的で、私が飼っている猫にその目は良く似ている。3歳年下で育ちの良さそうな彼は振舞いがスマートで、いかにもモテそうな男の子、という印象だった。

    「いいの?迷惑じゃないかしら」

    ほとんど話したことのない男性と2人きりで車に乗るには少し抵抗があったが、その日のコンペは上役ばかりで他の人にお願いするのも気が引けて、私は、結局彼の厚意をありがたく受け入れることにした。

    しかしこの選択が、その後の運命を大きく揺るがすことになるとは、このときまだ知る由もなかった。

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