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  • お食事会の星☆ Vol.2

    お食事会の星☆:仲間の目を盗み、隣に座る女の子の手をそっと握りしめた夜

    鉄平はなんとなく疎外感を抱えたまま、皆の会話に入りきれずにいると、メガバン女子・礼実と証券女子・珠理奈が話しかけてくれた。

    礼実は、今日いる女性たちの中では一番の美人だ。女子アナのような見た目とノリの良さを持っていた。

    珠理奈は礼実に比べると正直、華やかさに欠けるが、クラスで3番目に可愛いと言われそうな女の子だ。

    「鉄平くん、明日誕生日なんだね、おめでとう!誕生日は何するの?」

    「ん…?特に、予定はないけど」

    礼実は、普段だったらターゲットにするクラスの女の子だが、すっかり戦意喪失してしまった鉄平には、頑張って盛り上げる気力さえなかった。

    「え、そっか…。あ、じゃあ普段は何してるの?」

    今度は珠理奈に聞かれた。

    「普段?そうだなー仕事しかしてないかも」

    「仕事?やっぱり商社って忙しいんだね~」

    二人は愛想よく相槌を打ってくれるが、会話はイマイチ盛り上がらない。

    気付けば食事会の席は、自然と2つのグループに分かれていた。

    ひとつは鉄平と礼実と珠理奈。もうひとつはそれ以外の3人。淡々と話す鉄平たちとは対照的に、向こうは楽しそうに盛り上がっている。そのグループを仕切っているのは瑛士だ。

    「でもあれだね、さっきの話だけど、女の子たちも株とかレストランの運営企業だとかに興味あるんだね。やっぱり金融系だからなのかな」

    鉄平は盛り上げることをあきらめて二人に聞くと、礼実が立て板に水のごとく話し始めた。

    「そうかなぁ、金融以外でも株に興味がある子、結構多いよ。銀行の私が言うのもなんだけど、定期預金の金利なんて知れているし、それなりに効率的に資産運用をしようと思ったら株って結構とっつきやすいし。

    鉄平さんも、もうすぐ30歳でしょ?資産運用の意味でも、始めてみたらいいんじゃない?」

    ―食事会で資産運用の話とか、やめてくれよ。

    資産運用なんて守りに入っているみたいで、主義に反する。鉄平は本気でゲンナリしたが、礼実は構わず続けた。

    「それに株をやってるとニュースとかきちんと見るようになるから、自然と時事問題に詳しくなれるし。この年になると、社会情勢について自分なりの考えを持っていたいじゃない?」

    礼実が言いたいことは分かるが、鉄平は同意するつもりはない。返事をせずにいると、今度は珠理奈が口を開く。

    「ちなみに私、松井証券っていう会社で働いてるんですけど、今はアプリでサクッと株取引できるんですよ」


    「へえ、そうなんだ」

    鉄平は、あからさまに気のない返事を返した。

    株をやっている時間があればがむしゃらに働いて、万年睡眠不足で二日酔いであろうと目の前の仕事に全力投球。これが鉄平の貫いてきたスタイルだ。

    実際にそうして同期の中で抜きんでて来たという自負もある。だが、最近は少し気になることもある…。

    社内には「あの人、昔はすごかったんだよ」とヒソヒソ噂されるような中年の社員がいる。

    整えられていない白髪交じりの髪、哀愁漂う背中、だらしなく突き出たお腹を、1枚3,000円程度のワイシャツにぎゅっと押し込めたようなおじさんだ。

    今ではひっそりと事務仕事をこなしているが、「入社当時は目立っていた」と聞くことがある。

    それがまるで自分の未来の姿に思えて、鉄平は大げさなほど身震いした。

    「どうしたの、鉄平くん。大丈夫?」

    キラキラした女子アナスマイルを振りまいてくる礼実のことなんて、気にならないくらい鉄平の妄想は膨らむ。

    鉄平は入社当初、期待の新人として男女両方から注目された。体力と勢い、そして要領の良さで、どんな荒波も乗り越えていけると思っていた。

    だが、恋愛も仕事も、ノリ一発でごまかせる年齢では、とっくになくなっていたのかもしれない。

    経験、豊富な知識、戦略、深み…。30歳を目前に、自分には足りないものだらけだと、危機感に襲われる。

    ―今変わらないと、ヤバイ。

    もう遅すぎるくらいだと思った。

    自分は大丈夫だ、なんて勘違いをして竜宮城よろしくお食事会で騒いでいる間に、「冴えない」と思っていた瑛士に、仕事も恋愛も追い越されそうになっているではないか。

    「鉄平くん?」

    礼実の声でハッと我に返ると、大きく笑う瑛士の声が耳に響いた。気づけば珠理奈も瑛士のグループに入り、一緒に楽しそうに笑っている。

    瑛士のその姿は、つい数年前の自分のようだ。

    ―今夜もどうせ、この中から誰か連れて帰るつもりなんだろう?

    隣にいる礼実を見て、「自分だったら礼実を連れて帰るな」とぼんやり考えた。

    もう一度瑛士の方をそっと伺うと、彼は獲物を狙うような目つきで、礼実のことを見つめている。

    -負けられない…

    そんな想いから、鉄平は礼実の手をそっと握りしめた。

    ▶NEXT:12月15日 金曜配信予定
    礼実を狙う瑛士の目に気づき、思わず礼実の手を握った鉄平。この後、二人はどうなる…?

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