丸の内で37年!日本を代表するフレンチは何がそんなにスゴいのか

「小笠原産母島の青海亀のコンソメスープ シェリー酒風味」¥4,000(Sサイズ¥3,000)。澄んだ液体は丹念な仕事の証。店名のイニシャルをかたどったパイを添えて。価格は税サ別


良い料理人が、良い素材を思う存分使って作り上げた『アピシウス』の名物料理はいくつもあるが、筆頭に挙がるのは、「小笠原産母島の青海亀のコンソメスープ シェリー酒風味」だ。

雑味や重さはまったくなく、味わいは見た目通りに澄んでいる。それでいて、余韻は極めて濃厚。ほかの素材で作ったコンソメとは異なる、なんとも不思議な食後感を残す。

「他所では味わえない、店の顔となるスペシャリテを」という命題を受けて編み出したそのレシピはというと、甲羅ごとぶつ切りにしたアオウミガメを、香味野菜とともに数時間、沸騰させないようにしながら煮込んでアクを引き……と、ビーフコンソメとほぼ同様。

コンソメ全般について、高橋シェフの言葉を引用すると「琥珀色に輝く高貴なこの液体は、風味が一番大切です」とあり、「この液体を完成させるためには細心の注意を払って、素材の持つ旨みと香りを理想的に凝縮させなければならないのです」としている。

金の装飾がまばゆい特注品の磁器にも引けを取らない美しい液体は、代々の料理長とスタッフたちが、高橋シェフの教えを守っているからこそ。そして、代替わりした現オーナーも、先代同様に誇り高く理想の店作りをするレストゥラトゥール(レストランオーナー)であるからこそ、だろう。

ちなみに、小笠原のウミガメは捕獲制限が設けられており、現在は年間わずか135頭。年々稀少性が高まっているが、古くからの顧客である『アピシウス』には、と地元の取扱業者も尽力してくれるそう。届く日の朝には、厨房の若いスタッフが東京湾まで迎えに行くのが常だ。

「国産黒毛和牛ロース挽き肉の半生ステーキ ビトーク アピシウス風」¥13,000(Sサイズ¥9,500)。“ ビトーク”は通常「ロシアから伝わった牛挽き肉の料理」を指すが、アピシウス風は挽いた肉の表面だけに焼き目をつけ、その下にはフォワグラ入りのバターライス、煮詰めた白ワインやマスタード、玉ねぎをバターで乳化したソースと、極細のポテトフライを敷いて供する。価格は税サ別


世代交代を経て、更なる高みへ

さて、開店37年目に突入した『アピシウス』を切り盛りするチームを率いるのは、三代目料理長・岩元学氏。83年のオープン時に入社以来、高橋徳男シェフの元で技術を蓄え、1997年にスーシェフに。そして2008年、料理長に就任した。

岩元シェフは、歴史あるグランドメゾンの襷を受け取り、外してはならないフランス料理の「古典」的要素と、『アピシウス』という店に脈々と受け継がれている「伝統」とを守る、という重責を見事に担っている。

ただし、守る、といっても、ただ同じことの繰り返しでは、いつしか色褪せてしまう。物事の軸は守り、変わっていないように見せながらも、少しずつ、常にどこかをアップデートしているから、『アピシウス』は長年にわたり、多くのゲストをひきつけ続けているのだろう。

実は空間についても、同じことが言える。2006年に、それまでに築いてきたインテリアが醸し出すイメージは変えずに個室を増やすなど、よりゲストの要望に応える形に改修をした。

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