サラリーマン会計士・隆一の迷い Vol.1

「石の上にも3年」は、社会人として“死”の始まり。27歳で取り残された男の行く末は果たして…!?


「北村?どうしたんだ?固まってるぞ」

デスクで呆然としていると、オフィスにちょうど着いた冴木さんが声をかけてきた。

「・・・いや、今人事情報を見て」
「磯野のことか?」

冴木さんは僕の上司で、シニアマネージャーだ。最年少パートナー候補の一人として、社内でも注目されている存在である。僕と同じ慶應の商学部出身ということもあり、何かと気にかけてくれるのだ。

「はい。何も知らなくて」

冴木さんは少しの間のあと、「ベンチャー企業のCFOらしいぞ」と教えてくれた。その言葉に、また頭がフリーズする。

―ベンチャーのCFO?ヘッドハンティングでもされたのか?


誰よりもお気楽に見えた健が、水面下でそんなことを進めていたなんて信じ難かった。



「隆一、聞いてるの?」

その日の帰り道、彼女のユキと電話していると、電話越しの声が不満そうに響いた。健のことに気を取られて、ユキの話をきちんと聞いていなかったのだ。

「あ、ごめん。何だっけ」

「だから・・・。新入社員時代の上司が、宇都宮の支店に飛ばされたの。出世コースから、外れたのよ」

ユキは、大手メガバンクの一般職だ。同い年で27歳、付き合って3年目である。「そうなんだ」と相槌を打つと、躊躇いがちにこう続けた。

「隆一の会社って、どうなの?」
「どうって?」
「・・・出世競争、激しいのかなって」

ユキが結婚を意識していることは、会話の節々から伝わってくる。銀行員だけあって、ユキはかなりの安定志向だ。昔の上司が出世競争に敗れて、自分のパートナー(になりうる相手)の未来が、心配になったのだろう。

ユキの思う安定とは、僕が今の会社で出世することをさすのだろうか。

公認会計士といえど所詮はサラリーマン。今の会社にいれば、安定した未来が保証されている。上を目指すことが、きっと“正解”のはずだ。

そこまで考えると、急に息苦しさを感じた。23歳のときに思い描いていた未来は、こんなに窮屈なものではなかったのだ。


―健も、そう思って転職したのか?


ユキとの電話を切り、僕は慣れ切ってしまった今の生活に、うっすらと“迷い”を感じ始めた。


▶NEXT:10月9日 月曜日更新予定
転職する同期に触発された隆一が取った行動とは?

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

この記事へのコメント

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No Name
彼女のある身分で悪びれもなく合コン行ってるのを当たり前と思ってる節あるよね東カレ
2017/10/02 07:0351返信2件
No Name
東カレの小説、婚活とか主婦の話ばかりだったからこういうのも新鮮ですね。
しかし食事会の女子、公認会計士知らないとか頭悪すぎるなあ、、
2017/10/02 06:2243返信1件
No Name
会計士って、AIあれば要らないですよね。
本人達は要るって言いますが。

会計士が安泰だと思って結婚した人は、20年後果たして。。
2017/10/02 07:0028返信2件
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