女ともだち Vol.1

女ともだち:近況報告すらままならぬ。30代女の会話は“地雷”と“禁句”だらけ

「ママ」になった女ともだち


「原口、今夜の接待いけるよな?」

13時。オフィスに出社するや否や、リーダーに呼び止められた。

「...え?!」

まるで事前にアポイントがあったかのような言い方だが、今初めて聞いた話だ。しかしこういう時、自由な独身には断る理由がないから困る。

−今日こそは早寝したかった...

小さな願望は、捨て去るしかなさそうだ。観念するように「はい」と答え、今宵も長い夜になるだろう、と覚悟を決める。

沙耶は、大手広告代理店で働いている。

慶應義塾大学経済学部を卒業後、入社してからずっと、営業部門で深夜早朝問わず働き詰めの日々を送ってきた。

華やかな業界であるに違いないが完全なる男社会で、女を言い訳にしていたら務まらない。

それでも辞めようなどと思ったことは一度もないのだから、結局はこの仕事が好きなのだろう。


デスクに座って溜まったメールを処理しながら、沙耶は先ほど『ローダーデール』で見かけた女の子たちのことを思い出していた。

ー私たちも昔は、彼女たちと同じように全員同じカテゴリーに属していた。


1番に抜けたのは、意外にも理香だった。


理香はいちばんキャリア志向が強かったから、27歳という、ようやく仕事が楽しくなってきた時期に結婚の報告と同時に妊娠も知らされた時は、沙耶もあゆみも驚きのあまり一瞬言葉を失った。

外資系ジュエリーブランドに入社し希望通りの広報部に配属されて、その美貌とセンスを存分に発揮していた理香。

しかし「妻」、そして「ママ」となった理香は、拍子抜けするほどあっさり仕事を捨てた。

そしてこの頃から、3人の関係は少しずつ複雑になっていったのだ。



「沙耶には正直に言うけど、理香がいると楽しめないのよね」

ある夜『バー ゴジュウニバン』であゆみがポツリとそう言った時、理香に申し訳ないと思いつつ、大きく頷いてしまう自分がいた。

赤坂にオフィスがある沙耶は六本木、渋谷のIT企業で働くあゆみは当時麻布十番に住んでいたから、平日夜21時からでも22時からでもさくっと気軽に集まることができた。

理香も広尾に住んでいるから近くにはいるのだが、まさか子どもを置いて夜遊びするわけにはいかないだろうし声をかけづらい。

理香を交えて集まろうとすると必然的に週末のランチになるが、そういう健全な場では共有できない楽しみというものがある。

独身の沙耶とあゆみは、子連れランチではできない話こそがしたいのだ。

何も意図的に理香を仲間外れにしているわけではない。ただ自然と沙耶とあゆみだけで集まる機会が増えていったのは仕方のないことだと思う。

女は所属するカテゴリーで、ライフスタイルががらりと変わってしまうから。


集中してメールを打ち返し未読がようやくゼロになった時、デスクに置いたスマホが鳴った。

LINEの差出人は、理香。

まさに懐かしんでいたタイミングで連絡をよこすあたり、長い付き合いのなせる技だわ、などと妙な感心をしながら表示をタップする。

それは、今月30歳となるあゆみの、お誕生日会の案内だった。

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