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  • 港区女子の向こう側 Vol.4

    港区を“卒業”して、酸いも甘いも知り尽くした女たち。ピンヒールを脱ぎ捨てた後に見えた人生とは・・・

    「まさか、香が目黒に引っ越すとはねぇ」

    目黒の『ぴんちょ』でピンチョスをつまみながら、ミカは言う。

    様々なピンチョススタイルの料理が楽しめるこの店は、1階はふらりと立ち寄れるバースペース、2階はゆっくり食事を楽しめるダイニングに分かれており、香はその日の予定に合わせて足繁く通っている。

    「目黒、とてもいいわよ。美味しいお店もたくさんあって、交通の便もいいし」
    「さすが香、切り替えが早いわねぇ」
    「そうね。でも遊びに行くこともぐんと減ったから、落ち着きたくなっちゃった」

    港区に住んでいた頃に比べて、夜遊びはぐんと減った。夜遊びは減り、その分家でゆっくりと過ごす時間が増えて、料理もするようになった。

    「新しい恋は、どうなの?」
    「…うーん。そうねぇ。まだそんな気には、なれなくて」
    「まぁ、そうよね」

    そう言ってミカは2つめのピンチョスに手を伸ばしながら、こう続けた。

    「そう言えば、私の後輩の里奈っていたじゃない?」

    ミカの口から出た“里奈”という名前に、香は思わずドキッとした。里奈が将生と六本木で歩いている姿を見て以来、将生への想いは封印していた。

    「なんと、健人さんと付き合うことになったらしいわ」
    「…え!?」

    健人とはホームパーティーを開催してくれた、将生の友人だ。驚いた香は、思わず聞いた。

    「私、里奈ちゃんと将生君が歩いているところ、六本木で見たことがあるのよ。てっきり2人は付き合っているのかと思ってたのに…」
    「そうなの?そう言えば、“最初は他の人も交えて会った”、って言ってたわ。あの子、なかなか戦略的なのよ」
    「なんだ……」

    香が思わずうなだれると、ミカは不思議そうに香を見つめた。

    「そう言えば、将生君って香のこと気に入ってたわよね。でも香に彼氏がいるって知って、諦めたみたい」
    「もう、それを早く言ってよ…」

    香が手で顔を覆いかぶせると、ミカは「え?もしかして香も気になってたの?」と慌てていた。



    「よし。これでいいかしら…」

    香は全身鏡の前でにっこり微笑み、インカメラで写真を撮っていた。


    これまで香のトレードマークだった赤のリップとハイヒールは封印し、最近は青などの寒色系を取り入れたコーディネートにハマっている。最近更新していなかったInstagramだが、再びコーディネート写真を載せるようになると、またたく間に「いいね!」がつくようになった。

    今日は初めて、将生の家に行く予定だ。

    将生と里奈に何もなかったと知り、悩んだ末、香は思い切って将生に連絡した。その後何回か食事に行き、今日は最近将生がハマっているという、家飲みに誘われたのだ。

    今まで夜の港区でしか遊ばなかった香は、この家飲みがとても楽しみだった。

    足取りも軽やかに、将生の家に向かった。

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