2017.07.04
出世の花道 Vol.1
「秋吉です、よろしくお願いします」
7月3日。新しいデスクに行き、その場にいた部署の面々に簡単な挨拶を済ませて荷ほどきを始める。
デスクのものが定位置についた頃、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。振り向くとそこには、武田がいた。
「おう、久しぶり。俺の後任がまさか秋吉だとはな。びっくりしたよ。で、引き継ぎいつが都合いい?できれば早めがいいんだけど」
久しぶりに見た武田は、やはり感じの良い笑顔を浮かべている。
「おい秋吉、お前相変わらず愛想ないな。そんなんじゃ先生方を怒らせるから、気をつけろよ」
先輩のような口調で言われてムッとする。その感情を隠すこともなく思いきり表情にだした。
「だからさ、そのあからさまに不機嫌な態度やめろよ」
呆れたように薄く笑いながら言うその態度が、余計に直樹の癪に触った。
武田が言った「先生方」という言葉も、直樹には気にくわなかった。
直樹が今回配属されたのは文芸誌の編集部。今まで直樹が執筆を依頼していたのは、起業家、大学教授、コンサルタントなど、本職を別に持っている人たちだった。
対して、今回配属された編集部では、執筆を依頼し、編集を担当する相手はプロの作家だ。程度はどうであれ、筆1本で生きているような人たちだ。
大御所と言われる大先生たちの担当をしている者も多い。
だが、今回直樹が引き継ぐことになっている作家は、大先生どころかはっきり言って落ち目の女性作家だ。
その作家は、会社が主催している新人賞に応募して、佳作でどうにか入賞した。
武田は彼女に何か光るものを感じたらしく、担当を熱望して彼が編集者として3作を出版した。そして、見事にすべてが売れなかった。
会社はテコ入れとして、担当を変えることにした。武田は数年振りに営業部に戻ることになり、女性作家の担当にはビジネス書で結果を出した直樹が抜擢された。
「お前さ、ちゃんと本読んでるか?」
武田が茶化すように言ってくる。
―たぶん、お前よりは読んでるぞ。
口にはしなかったが、その自信はある。だからわざわざ反論するのも面倒で、話を逸らすように言った。
「じゃあ、引き継ぎは明日の午後でいいか?」
時間を決めると武田はまわりの同僚たちに、大げさな挨拶をしながら編集部を後にした。
武田の、愛想が良すぎるほどの態度が、昔からどうにも鼻につく。
―よりによってあいつの後任かよ……。
ビジネス書の編集部で、やりたいことはまだまだ沢山あった。
構想中の企画や、密かにコンタクトを取っていた若手の敏腕経営者だっていたのだ。
だが、会社からの辞令には逆らえないのがサラリーマンの宿命。
2年を目処にビジネス書編集部に戻るつもりで、黙々と荷物を整理した。
▶NEXT:7月11日 火曜更新予定
無愛想な直樹。女性作家と対面し、さっそく問題勃発。
【出世の花道】の記事一覧
おすすめ記事
2024.03.06
春の風に吹かれて
「親の期待に応えるのはやめた」大企業でのキャリアを捨て、慶應卒28歳女が飛び込んだ世界は…
2021.01.16
ネイビーな妻たち
“名門私立小”出身者が抱える闇。小学校受験を巡って繰り広げられる、ママ友同士の攻防戦
2016.03.07
文具の品格
文具の品格:「仕事できなそう」との一言を払拭すべく、男が手にしたモノとは?
2016.05.06
東急カレンダー
東急カレンダー:忙しい人ほど遊んでいる!を体現するIT社長が代官山を愛する理由
- PR
2024.03.27
海外セレブの間で「テキーラで乾杯」が流行中!お祝いの席にぴったりな、ラグジュアリーテキーラとは
- PR
2024.03.26
GWの予定はもう決めた?北海道&沖縄で絶大に支持されるリゾートホテル4選
2016.06.05
学歴カレンダー
学歴カレンダー:全てを手にしているかのように微笑む学習院卒の男との消化不良なデートとは
2017.07.06
東京百景
#東京百景:月曜朝8時。銀座四丁目交差点
2016.06.25
僕らの世代の東京ソング
東京事変からサカナクション! 土曜日の夜に聞きたい最新の東京ソング4選
2016.07.28
エスケープ・ハワイ
エスケープ・ハワイ:東京で疲れ果て辿り着く楽園。30歳、3ヶ月の現実逃避の先にあるもの
東京カレンダーショッピング
『秋田かまくらミート』:秋田を代表するブランド牛「秋田由利牛」!サシの美しい上質なしゃぶしゃぶ用サーロイン
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『パンツェロッティ』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
『レザンファンギャテ』:しっとりと濃厚で、コクのあるニューヨークスタイルのチーズケーキ
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
ロングヒット記事
2024.03.18
「そういうとこ」で振られる男
「元カノと復縁できるかも」と喜ぶ34歳男。タイ料理店でデート中、彼女の表情が曇り…
2024.03.19
Editor's Choice~fashion~
感度の高いイマドキ女子から大人気!モネ“睡蓮の池に架かる橋”がフェイラーのキュートなハンカチに
- PR
2024.03.21
Editor's Choice~beauty & wellness~ 特別編
仕事もプライベートも充実している人ほど、〇〇投資している!?当たり前すぎて意外な生活習慣とは
2024.03.22
大人の週末ToDoリスト
長澤まさみ出演の映画や、バンクシーの展示…今週末いくべきイベント3選
2024.03.24
Editor's Choice~hotel~
シャンパンのフリーフローをテラスで堪能!渋谷の最新ホテルで叶う華やかな女子会
この記事へのコメント